悲しげな瞳
「陽香さん、まどかさんは本当に死んでしまったのですか?」
まどかの死体の前で、悠馬は私に問い掛けてくる。
そんなこと、言わないで頂戴よ。だって私が、殺してしまったのだから。だから言わないで、だって私は弱いから…。
「ええ、そうみたいね。でもこれ、どうするの?」
私にはこれが限界。暴れないように、自分を止めるだけで限界なの。冷静を装っても、…ああ、そんなのも…。
「僕は別に、いいと思います。ここに、このまま置いておいても…。だってどうせここに埋めたって、まどかさんは報われませんから。それだったら、そのままそっとしておいてあげた方が…」
「分かったわ、じゃあこれはこのままでいい。魔王を倒しに、向かいましょう。でも今の私達じゃ、このようなことが繰り返されるだけ。もっと…」
もっと強くならないと。魔王を倒し、世界を平和に導けるほどの強さが、私にあれば…。
「そうですね。では急ぎましょう、次なる被害者を出さないためにも…!」
悠馬がどんどん歩いて行く。私もまどかのことは出来るだけ記憶から消し、悠馬の後を追って行った。
「築田村は人口も多いですし、格闘技とかも盛んだったんです。だから少しくらいは魔王に抗うことも出来るかもしれません」
歩きながら、悠馬は言って来る。魔王に抗うことが出来るって。そんな訳ないじゃない。
あそこまでの邪気の塊、初めてだわ。私だって、体験したことのない恐怖に襲われた。そんな奴に人間が、挑んだり出来る筈ないでしょう? どうせ怯えて、殺されていくだけよ。
「fire stoneがあるのよね。だからそれを扱えるだけの人がいれば、魔王と時間稼ぎ程度の闘いを繰り広げることが出来るかもしれないけれど…」
それで限界ね。それにそう簡単には、stoneを扱えないわ。上手く扱えない人がstoneを持てば、stoneに呑まれて力となるだけ。
そしてstoneの力として、いずれ魔王に使われてしまうことになるのだ。
「でも僕、魔王がそこまでの悪い人に見えなかったのです。悲しそうな、表情をされていたのです。何だか、寂しいようでした」
何を言っているの? 魔王のどこが、いい奴だって言うのよ。どう考えたって、悪い奴だったでしょ? やっぱり悠馬、可笑しいんじゃないの?
「多分きっと、魔王は説得できると思うんです…」
「だったらさっき、すればよかったじゃない。さっき説得できてれば、殺す必要もなかったのに…」
貴方はまどかを見捨てたわよね? 説得なんて、出来やしなかったわ。




