殺人者の思い
「あっはっは、それは面白そうですね。今回も僕が、先にやっていいですか?」
悠馬がもはや壊れたかのように、満面の笑みを浮かべている。何よ、何なのよ…。どうしてそんな、笑顔でいられるっての?
「ええ、お先にどうぞ」
まあ悠馬の望み通り、私は譲ってあげた。でも先にどうぞって自分でも言ってるんだから、次に私がやると言っているようなものじゃないの。
もしかしたら、もしかしたら魔王が私にやらせないかもしれないのに。いや、そんなことがないのは分かっているのよ? でもね、万が一、億が一に…。それを信じてもいないなんて、私ももう壊れてるのかしらね。
「ほう? やっぱお前、いいねぇ。最高だよ、ほらやっちゃいな」
魔王は悠馬に、バットを手渡した。成程、魔王はまどかを”まだ”殺すつもりないんだわ。意識があるまんま、痛みを味あわせたい…と。だからあえて金属ではなく、バットだって木製なのね。
「はい、ありがとうございます」
バットを手に持った悠馬は、不気味に笑いながらまどかを思いっ切り殴った。殴った時の音に合わせて、魔王の笑い声、まどかの悲鳴が響き渡った。とても、不快な音声。
「仕方がありません、陽香さんにもお貸ししましょう」
笑顔のまま、悠馬が私にバットを渡してくる。でもこれで苦しめ続けるんだったら、いっそのことまどかを殺してしまった方がいいかもしれない。そっちのほうが、まどかも楽になれるでしょう。それにどうせ殺されるんでしょうから、魔王じゃなくて私の手で殺してあげるわ。
私はバットを受け取り、右手に力を込める。そして殴る部分を、ばれないようにそっと金属に変化させる。
「陽香、お姉ちゃん。やめてなのです」
まだ信じているって言うの? でも私だって、覚悟は出来てるわ。私はそのバットで、まどかの頭を力いっぱい殴りつける。
手に伝わる嫌な振動、辺り一帯に(私の頭に?)響く鈍い音。そして途絶える、まどかの悲鳴。やったの? 私は殺ったの? ふっ、ふふっ、あはははっ。
「おや? どうしたんだ? お前、どんな力してるんだよ」
ドン引き魔王は、動かなくなったまどかを髪を掴んで持ち上げる。
「死んでやがる、何と言う力!」
まあ驚くでしょうね、だって一発で殴り殺すなんてかなりの力でしょう? 私は力で殺したわけじゃ、ないんだけどね…。バットを魔法で金属製に変えて、殴るときの力も魔法でだもの。
「ちっ、死体はいらない。まあいいだろう、予想外のハプニングによりショーは中止になります。では、また会おう!」
やったー、魔王が去って行った。私の前から、消えてくれた。でもどうせなら、まどかの死体を持って行って欲しかったわ。だってこれ、どうするの? ここに埋めても、何か…ねえ?
「陽香さん、殺してしまったのですか…。どうしましょう」
どうしましょうって、そんなの私が訊きたいわよ。だって貴方は殺していないじゃないの、殺したのは私、なのだから…。ああ、ああ…。
「貴方はこれから、どうするの? だってもう、魔王には会えたでしょう? 旅はおしまいかしら」
今のがあったから、私は意地でも魔王を殺しに行くのだけれども。果たして悠馬は、どうするつもりなのかしら。
「いいえ、僕も陽香さんについて行きたいです。確かに魔王に会えたことは嬉しかった、でも違うんです。魔王もカッコいいとは思いましたけど、僕は魔王を倒すことに憧れていたんです。それに…、仇も打ちたいですし…ね」
「そう、なら勝手にしなさい」




