消えゆく光
「陽香さん? 今度は落とさないよう、気を付けてやってくださいね」
何よ、悠馬の動揺が笑顔に変わっていく。どうしたって言うのよ、いや怖がっちゃいけないわ。
悠馬なんて怖くない。魔王なんて怖くない。まどかなんて怖くない。何も怖くはないのよ。うん、私は大丈夫。
「分かっているわ、ちょっと冷たくて驚いちゃっただけよ」
冷静を一生懸命装いながら、私は魔王からあれを受け取る。そしてまどかの右手を、震えながらも掴む。
「陽香お姉ちゃん? やめてなのです。嘘なのです。陽香お姉ちゃんは、そんなことしないなのです」
五月蝿いわね。私はまどかなんて、怖くはないわ。怯えた目を恐れちゃダメ、力のない私は魔王に従うしかないのだから…。
まどかに同情すれば、代わりに私が殺される。弱い私は、そちらをより恐れるから。だからまどかなんて、考えちゃいけない。そう、こいつはまどかではないの。そうだわ、大嫌いな虫だと思えばいいじゃない。それならば、いくらでも攻撃出来る筈。躊躇うことなんて、無い筈よ。
「残念だったな、彼女はお前を助けはしないよ。信じるだけ、無駄ってもんだ。信じていた人に、拷問されてみたいだろ? ひゃっはっはっは、やっぱ人間って醜いもんだなあ!」
そんなの、分かっているわ。人間だけじゃない、生き物なんてそんなものよ。自分の為に、自分が生き残るために相手を犠牲にするのは当然のこと。
私は手に持った道具で、まどかの右手の中指を挟む。ごめんなさいまどか、でも私はこういう奴なのよ。
「やめてなのです。陽香お姉ちゃん、嘘と言ってなのです」
最後までまどかは、私を信じて助けを求めていた。でも私は、そんな少女の期待を裏切った。力いっぱい握った、魔王がやった奴よりも惨い音がする。変色していく、まどかの顔が痛みに歪んでいく。私を信じて少しだけ作り笑顔に近づけていたのだが、もう限界らしいわね。
「はっはっは、面白いだろう? 他にもいろんな道具があるんだけど、使ってみないか?」
え…? まだやれって言うの? ふざけないで、もう私…。
でも流石のまどかも、ここまですれば私を信じはしない筈よね。もう流石に、瞳の希望だって消える筈よね。瞳に希望が宿っていない人なんだったら、私も恐れずに殺せる。だって相手もそれを、望んでいるということだから。そうじゃないとしても私が、そう考えることが出来るから。
「じゃじゃじゃじゃ~ん、バット! どう? これで、叩くだけ。簡単に、面白い反応を楽しめる最高の商品なのだ」
魔王が出すバットと言うのを、私はてっきり金属バットのことなのだと思っていた。でも以外に魔王は、木製のバットを取り出した。いやいや、そう言う問題じゃない筈よ。