届かない願い
「ほぁ~」
今日の目覚めは最悪ね。何だか、悪い夢を見ていたような気がする。気持ち、悪い…。
私は顔を洗ったが、その違和感が消えることはなかった。何なのかしら、何だかとても悪い予感がするわ…。
「歩ちゃん!大変よ」
私がご飯を食べ終わりそろそろ寝ようと思っていた時、部屋にお婆さんが飛び込んできた。大変って何が?
「魔王が、魔王が”dream stone”を!」
魔王?私の先祖が封印したとかいう奴?知らないわよ、そんなの。だから何?石なんて、別にいいじゃない。
「歩ちゃん、見に来てよ」
「ええ、着替えて行くわ」
私はパジャマのままだったので、自室で着替えて外に出た。あれ?このお婆さん、不法侵入じゃない?
「歩ちゃん、こっちこっち」
私が渋々お婆さんについて行くと、そこには…。ちょっとえっ?私は暫くの間、理解が出来なかった。だって理解に苦しい出来事だったんだもん!
「どうなってんの?」
プルプルしてそうな黒く大きな何かが沢山いて、そいつらは家を壊していた。人々は逃げ惑い、プルプルの体内に吸い込まれていく。どうゆう、ことなの…?
沢山のプルプルたちは、人々を吸い込んだ後には必ず何処かへ向かっているようだ。ついて行ってみよう。私はお婆さんのことなど気にせず、隠れてソーッとプルプルしたスライム型の何かについて行く…。
ん?何かしら。立ち止まったわ。そしてプルプルの口らしきところが裂け、そこから可笑しな液に包まれた人間が出てきた。気持ち悪い…。
「ふっふっふっふ!」
低い声が聞こえてくる。…!プルプル共の中心に座っている、女性の影が少し見えたわ。私はそっとばれない様に、もう少し近寄ってみた。
ここなら良く見えるわ。黒く長く綺麗な髪、整った顔。そしてそこに浮かぶ、満面の笑顔。細長い手足、白い肌。凄く綺麗な人だな…。
「よくやった、もっと人間を集めて来い!」
え…?その綺麗な女性の容姿からは似合わない低い声で、可笑しな言葉が発せられた。そして女性は、更に可笑しな行動に出た。
「ああ、愉快だなあ!へっへっへへへ」
ぬめぬめに包まれた人々を、小さな刃物で刺し始めたのだ。
”私ノ村ノ村人達ヲ”
…!翼!?あれは絶対に翼だわ。自分の弟を、見間違えるはずがない。ヤメテっ!私の願いは届くはずもなく、女性は翼の体を次々に刺していった。見たくないのに、目を離せない。
翼は抵抗していたが、やがて動かなくなった。そして女性はもう興味がないとでも言う様、に翼をさっきのプルプルの中に入れ、他の人を刺し始めた。
”翼ハ死ンジャッタノカナ アイツハ、翼ヲ殺シタ 許サナイ”
しかし私に出て行くことは出来なかった。結局誰も助けられず、ただ殺されるのを見ていただけ。余りの恐怖に、動くことも出来なかった。あははは、私ってこんなに憶病だったっけ?てっきり、情に流されて殺されに行く性格だと…。