絶望の叫び
「本日私は、お客様の為に特別な道具をご用意いたしました」
特別な、道具…? 何だって言うのよ。
「これです。これが何だか分かりますか?」
えっと、クルミとかを割るやつよね…。でもクルミにしては、少し小さいわ。それは何? それで、何をしようって言うの?
「使い方は簡単です。私が見本を見せますので、よ~く見ていて下さいね」
魔王はまどかの右手を掴み、動くことも出来ずにいるまどかの、右手の親指の関節をその道具で挟む。
そして取っ手を力一杯握る。嫌な音とともに、まどかの指は可笑しな方向に曲がった。
「ぎゃ~っ!!」
まどかは苦しそうに、泣き叫ぶ。ああ、痛そう。
魔王のその道具を外されたまどかの指は、変な色に染まっていく。私の予想とは反して、赤ではなく青緑色になっていく。そしてそれを、まどかは痛そうに左手で押さる。
「ねえ? 簡単でしょう。それでは、お客様もどうぞ」
あんな酷いことを、やれと言うのね…。ああ、いいでしょう! もう私はまどかを見捨てたのよ、これをやらなくても酷いってことは変わらないわ。
「まず僕がやります、陽香さんは待ってて下さい」
悠馬…。少し声も手も震えているが、悠馬は魔王から道具を受け取った。そしてそれで、まどかの右手の人差し指を挟む。
「そのまま、力入れるだけでいいんだ。ひゃっはっはっはっは!」
敬語や少女の姿はなくなり、完全な魔王の姿となっていた。
「分かりました、行きますよ」
悠馬は両手を駆使して、一生懸命それを握りしめる。
「きゃあ~!! やめて~!!」
頑張って力を入れると、それに比例してまどかの叫び声も大きくなってくる。まどかは泣き叫び、左手で悠馬の手を払おうとする。
「へえ、根性あるなあ。それともただ、最低なだけなのか。しっかし、そんな本気で握るとは思ってなかったぜ。あっはっはっは、それが人間か!」
魔王は、不愉快に笑う。まどかの鳴き声も聞こえなくなるくらい、魔王の笑い声は私の頭に響き渡る。
「次はお前の番だ、順番だろ?」
悠馬から受け取ったあの道具を、今度は私に渡してくる。どうしよう…、私にあんなこと。
確かに私は非道だけど、勇気はないわ。力なんて、入る訳ないじゃないの。
「ええ、分かっているわ」
明らかに怯えながらも、私は魔王から受け取る。
「きゃっ」
しかしその感触にすら驚き、それを落としてしまう。
「どうしたんだ? 落としたりして。まあいい、手が滑ったのだろう」
幸い私を咎めはせず、それを拾ってもう一度渡してくれる。