醜い魂
「ヴヴァ、イヤァ! 陽香お姉ちゃん、助けてなのです。ごほっごほっ」
まどかは必死に、私に助けを求めてくれる。でもねまどか、残念だけど私には助けられない。
「酷いねえ、助けてあげないのかい? この子はお前のこと、信じてくれてるってのにさあ!」
さあ! と怒鳴るのに合わせて、まどかを再び地面に叩きつける。赤黒い液体は、跳ねて私の頬に当たる。
「いつもなら料理なんだけど、今回はショーだ。お前は特別、喜んでくれ」
約凜子は、もう目も開かないまどかに話し掛ける。多分あの様子じゃあ、まどかにまだ意識がある。死んでしまえばまだ、痛くないのに。苦しくないのに、ね…。
「ひゃはははは、ほら笑えよ! 楽しいだろう? ひゃっはっはっはっは!」
元々低い落ち着いた声だったのだが、この笑い声は裏返っていかれているほどに高い。いや、いかれてるか。
そして私は、彼女が魔王であることを確信した。なぜならまどかを掴む彼女の手に、細長い緑色の手が浮かんだからだ。
本来の魔王としての姿が、出てきている。それは不味いわ、流石の私も見たくないもの。
「どうして笑わないんだ? この私が! ただでショーを披露してやってるってのによお!!」
顔も少しずつ、魔王としての顔が出てきている。
「え…、あははは…。ありがとう、ございます」
冷静といる訳ではなさそうなのだが、悠馬はこの状況で笑って見せた。でもまあ、それが正しいのかもね。
もうまどかを裏切ってしまっている、助けることなどできない。それならば、魔王に従ってしまった方が自分にとってはいいもの。
「ええ、素晴らしいショーだわ。ふふふふっ」
私は懸命に作り笑顔を浮かべて、魔王に拍手まで送る。
「だろう? お前ならそう言ってくれるって、私は思ってたさ」
それはどうゆう意味? 私は明らかに、少女を見捨てそうな顔だとでも言いたいの? バカにしないでよ。
「そう、それはありがとう。ショーを続けて頂戴」
何ということを! 止めるどころか、続けるよう促すなんて…最低だわ…。
「ああ、そうさせて貰おう」
魔王はまどかを、砂の上に正座させる。そして握っていた髪の毛を離した、何をしようって言うのよ。
「このショーは特別なので、お客様に参加していただくことが出来ます。お二人ともどうですかあ? ひっひっひっひ」
参加? それは私達に、まどかを痛みつけろって言うの? そんなこと、出来る筈ないじゃない。