お迎え
「もう? ってことは、見たことあるのですか? どんな感じでしたか、僕にも教えて下さい」
そうね、確かにまどかは”もう”見たくないって言ったわ。でも魔王に会った人間が、生きていられているとは考えずらいわね。
自分の姿が見られたというのに、魔王が殺さないなんて…。
「いやなのです、思い出したくもないなのです。いやなのです」
まどかは頭を抱え、座り込んでしまった。
「そんなに私に、会いたかったのか?」
誰!? 私は辺りを見渡す。どこにいるの!?
「こっちだよ」
私が後ろを振り返ると、そこには少女が立っていた。綺麗な、黒髪。それに、笑顔…。あのエロジジィが言ってた特徴と、一致するわ。
整った顔立ちと長い黒髪は、日本人形を連想させるわね。背も高いし大人っぽく見えるが、歳は私と変わらないでしょう。
「ひぇ! いやなのです! あぁぐぁぁあ!」
それにまどかのこの乱れよう、この少女が凜子/魔王と見てよさそうね。
「貴方が魔王ですか、会いたかったです」
悠馬は平気な顔で、魔王に近づいて行く。まどかが壊れるほど恐れているというのに、よくまあ冷静でいられるわねえ。その精神には少し感心するわ。
「そうだな、お前らはどうだ? 私に会いたかったよなあ」
私達? ええまあ、会いたかったと言えば会いたかったわよね。魔王を探していたわけだし…。
「ええ、とっても会いたかったわ。貴方が来てくれなければ、私から行こうと思っていたもの」
「いやなのです、まどかは嫌なのです。来ないで来ないで来ないで、嫌なのです」
そんなに怖がらなくても大丈夫よ、魔王なんて恐れるに足りないわ。
「あ~れ? 悲しい事を言うね。私がそんなに嫌いか、残念だ。ふふふはははは」
凜子と思われる少女は、まどかの髪を掴む。そしてそのまま、思いっきり引っ張って持ち上げた。
「よし、これからショーを始めるよ。お前ら二人は、観客として観戦していてくれ。いいな?」
ここで逆らったって意味はないわ、私達は頷いた。ごめんなさいね、まどか。
「楽しんでくれたまえよ」
まどかの髪を掴んだまま、手を挙げて手を振りながら言う。凄い力ね。
「ふふふふふあはははははは」
楽しそうに口を大きく開けて笑うので、整った綺麗な顔が台無しだわ。
「目を離すなよ。瞬きせずに、よ~く見てるんだ」
上に上げていたまどかを、今度は思いっ切り地面に叩きつけた。叩きつけられた部分だけ、砂は赤黒く染まっていた。