本物の魔王
「天使? 何言ってるんですか。天使みたいな使いごときじゃなくて、貴方は女神様ですよ。自分のことも、覚えていないのですか?」
やっぱり悠馬は、人間界の者ではないの? それに私の過去を、知るもの…。
「何を言っているの? 女神って…」
「女神? 何の話ですか?」
ふぇ? 悠馬はキョトンとした顔で聞いてくる。何? 二重人格か何かなのかしらね。
「それで、何するなのです?」
何するって、そりゃまあ魔王を探すわ。
「築田村だっけ、に行くわ。ねえ悠馬、方角は分かる?」
分かってれば、いいのだけれど…。
「え? は、はい。築田村の場所なら、分かります。結構遠いので、頑張りましょう。僕は魔王の為なら、頑張れちゃいます!」
魔王の為? ああ、魔王に会う為ってことかしら。
「道案内、宜しく頼むわね」
「はい、僕に任せて下さい! ああでも、間違えちゃっても怒らないで下さいね?」
歩き始める前にそれとは、間違える気満々ね。
「道は分かるんですけど、道の通りに行けないんです」
要するに、アホだと。まあいいわ、私だって道が分からないのだから。
「いいから早く歩き始めてくれる? あまりにも滅茶苦茶じゃなければ、着いて行ってあげるわ」
「はい! 多分こっちです」
悠馬は元気に返事をし、元気に歩き出す。疲れないのかしら?
「後で体力がなくなるでしょう? もう少し大人しくしてなさい」
「はい!」
これは…、もうダメみたいね。まあ疲れたって言ったって、自業自得なら休ませないわ。
「暑いなのです」
「疲れたなのです」
暫く歩いていると、まどかが五月蝿くなってきた。
「そんなに疲れたのなら、もう歩かなくていいわよ。そこで休んでいなさい」
暑いのも疲れたのも、私達二人だってそう。でもそれを、口に出したりはしないわ。
「嫌なのです」
五月蝿いわね! そんなに何もかも嫌ならば、死ねばいいじゃない。
「どうして嫌なのですか? この先に魔王がいるかもしれないのですよ、それだけでワクワクするじゃないですか。本物の魔王って、どんな奴なんでしょうね」
それはそれで、ちょっとどうかと思うけど…。
「まどかは魔王を、もう見たくないなのです」