間違った記憶
「これ、ありがとうございます。薬か何かなのですか?」
塗り終わってからそれを聞くの? まあいいわ、私は薬をバックの中に片す。
「ええそうよ、痺れに効く薬なの。一応持っておいてよかったわ」
適当ね。痺れに効く薬って…そんなの持ち歩かないわよ。私医者じゃないのよ?
「さすがなのです。陽香お姉ちゃんは凄いなのです」
まどかが纏わりついてくる。鬱陶しいわね。
「それで、魔王はここにいないんですか?」
何で私に訊くのよ。でもまあ、いないでしょうね。
「この近くには、いないんじゃないかしら。でもここも、魔界ではあると思うわ」
あの穴を通った時点で、魔界には辿り着けているのよ。
「魔界? それって、魔物が住んでるとこですよね? 怖いです、襲われないかな…」
怖いも何も、魔物くらい人間界にもいるでしょ? 今まではそんなこと、無かったんだけどね。
「襲われるって、砂しか見えないなのです」
何バカなこと言ってんの? みたいな感じに、まどかが言う。
「何も見えないからって、油断しないで頂戴。砂から出てくることだって、飛んでくることだって、姿が透明なことだってあるのよ?」
まあ近くに魔物がいれば、私が気配で分かるんだけどね。
「そうなのです? 吃驚なのです」
でも貴方だって、いきなり出現した魔物に襲われたことあるでしょう?
「じゃあ僕も、気を引き締めて行きます!」
何だか、妙に楽しそうね。この場所じゃ、普通の人間は死にかねないってのに。
「それで、ここからどこに向かうの? こんなところを彷徨い歩こう、って気にはならないのだけど」
「そうですねぇ、魔王はどこにいるのですか?」
知らないわよ! でもあの…火の村? に行ければ、いるかもしれないのよね。
「火の村にいるかも」
まあこんなこと言ったって、方角も距離も全く分からないのだけどね。はあ、まずここがどこなのか調べないと。
「火の村? 築田村のことですか? そこだったら、何もなくても四日はかかりますね」
四日? どういう事かしら。
「不思議そうな顔をしていますね。もしかして、僕のこと忘れちゃったんですか?」
私を見つめながら、悠馬は笑顔で聞いてくる。何なのかしら、やっぱり賢い子なの? てか、忘れちゃったって?
「何言ってるの? バカじゃない?」
頭が可笑しくなっちゃったのか、人間界の人ではないのか。
「女神がそんなこと言ってもいいのですか? 優しそうなイメージ、崩さないで下さいよ」
え…女神って…?
「何の話なのです?」
「さあ、私も分からないわ」
女神って私の事を言っているの? 違う、私はそんなのじゃない筈。過去のことはよく覚えていないけれど、天使だった気がするの。