勇者の決意
「ひゃっひゃひゃっ! へへへへっ、ああ良いねぇ、良いねぇっ!」
どんなに耳を塞いでも、頭の中に響く気味の悪い声。いくつもの村を襲い、罪なき人を殺してきた魔王が、遂に私の村まで来てしまったのだ。一緒に逃げようと言っていた友達も、捕まって……魔王の野朗に殺されてしまったのだ。
許せない。許せない。一人で生き延びている私も、許せなかった。隙を狙えば、敵を取れるのだろうか。それでもやっぱり無理なのだろうか。その為に、折角残っている命を無駄にしてしまうの? そうだ、皆の思いを背負っている、私の命が代表だと思えば良い。それならば私を許せるのではないだろうか。
「もう誰もいないかな? つまんないの。次の村へ行くとしようか。へっへっへっへ」
気味の悪い笑い声が遠ざかって行き、縮こまっていた私はゆっくりと頭を上げた。警戒しながら辺りを見回すけれど、魔王の影はもうない。残っているのは、無残に殺された村の人々だけだった。
「気持ち悪い」
その情景に対する吐き気を堪えながら、私は歩き出す。もうこれ以上、無情に殺される人が出ないように。もう二度と、私のような思いを誰もしない為に。今の私には無理だとしても、いつか必ず、魔王を殺してみせましょう。
”この私の手で!”
決意を固めた私には、淀んだ空が青く澄んで見えた。それは私の目が淀んでいたからだと、気付かないままに。
「生き残り、見~っけ。どこに隠れていたんだい? 見逃しちゃうところだったよ」
もう去った筈の声。
「ひゃひゃっひゃっひゃっひゃ!」
甲高い、耳障りな声が脳内で木霊する。




