姫神の最期
私の幸せが、皆の幸せ。皆の幸せは、私の幸せ。一人が幸せになれば、他の誰かも幸せになり、また別の誰かが幸せになって、誰もが幸せになれるのでしょう。それならば、私が幸せになる道を作るのが一番良いのね。そのことによって、誰もが幸せになれるんだわ。
そう思うと、思う存分私は幸せを満喫出来た。余計なことなんて、考える必要ないわよね。私はただ、幸せになっていれば良いの。皆が望むことなんだから、仕方がないわよね。ただ幸せでいて、ただ笑っていて、そんな私の姿を誰もが望んでいて。だから私は幸せになろうとするの。
その為の犠牲も、仕方がないわよ。全てを幸せに導く為ならば、少しくらいの犠牲が出たって当たり前だわ。むしろ、その犠牲を少なくさせている、私の能力を褒め称えて欲しいくらいね。全く、皆は私がどれだけ役に立っているのかを理解していないのよ。
昔は他人思いの優しいお方だった。そんなことを言うけれど、昔は自己満足の為の努力をしていただけ。今の私の方が、気付かれないところで努力して、気付かれないところで他人の役に立っているわ。つまりは、今の私の方がずっと他人思いの優しくて素敵な存在なのよ。
まあ、努力を隠してしまったら、勘違いされてしまうのもやむを得ないこと。それを覚悟の上で、私は人々の幸せの為に働くことを誓ったんだもの。認められなくても、誰かが幸せになってくれるのならばその方が良いと、私はこうして影の努力を始めたのよ。
褒めてくれる人は羅刹だけでも、構いやしないわ。私は別に、褒められたくて努力している訳じゃない。人に努力を見せ付けて、褒めて褒めてとせがんでいた、あの頃の私とは全く違うのよ。だから私は、羅刹さえ私のことを信じていてくれれば、他の誰に嫌われたって構わないの。
そう考えを改めてからは、なんだか全てが楽になったように感じた。不安になることもなくなったし、自信を持って皆の為に私は頑張っているんだと、言えるようになったわ。誰に何を言われても、この人は私の努力を知らないだけだと思えるから、少しも心は痛まなかったもの。
気楽に生きていると、病気になることも格段に減ったわ。元々、健康な方ではあったわ。それでも、驚くほどの健康ぶりで病知らずだったもの。でも寿命は永遠じゃないし、神にだって死は訪れる。妖精が滅んだり、新たな種族が生まれたり、そんな小さな変化も途中からはどうでも良かった。
何も気にせず神界を生きているうちに、いつの間にか時は流れていて。私も羅刹も梨乃も、すっかり年老いてしまっていた。梨乃が年齢の為に大神様を引退してからは、幼かったあの日のように、死ぬまで仲良く遊んで暮らすことが出来たわ。




