望まれるままに
「いいえ、言葉の通りの意味です。姫神様さえ、僕たちさえ幸せならば、それで良いのではないかと思ってしまうのです。だから、言葉通りの意味ですよ」
自分さえ幸せならばそれで良い、確かにそう言われてしまえばそう思えるかもしれないわね。若くて無邪気で、何も知らなくて、あの頃の私ならばこんなことはなかったでしょうに。何も持っていなかった、何も知らないでいられた、あの頃の私ならば絶対にありえなかったでしょうに。
でも今のこの状況も、安定した世の中だとは思うのよね。あら? 安定しているんだったら、これ以上考える必要なんてないじゃない。私ったら、いつまでゴダゴダ悩んでいるつもりだったのかしら。そうよ、なんでまた変なことを考えだしちゃったのかしら。
まだ、幼い頃の気持ちが残っているのね。人間界にきたときにはいつも、ここが平和なのかを考えてしまう。その考えがまた、争いを起こしてしまうのだと今の私なら知っている筈よ。それだったら、今の平和に甘えていることの方が、平和を続けさせる為には良いに決まっているわ。
それに今の世は、梨乃の頑張りによって作られているもの。だから、邪魔をしたりしてはいけないわ。そんなこと、許されて良い筈がないでしょう。凛子のことをまだ、彼女は想っているのかもしれないわね。罪悪感と償いの気持ちからの行動かもしれないけれど、彼女は努力している。
努力しているんだったら、邪魔することはいけないわ。それが友達として、そして彼女を大神様という呪いの職業に就けた張本人として、当然のことじゃないかしら。だから私は梨乃のやり方に委ねて、自分の仕事に徹すれば良いわ。
そして人間界へやってきても、何も感じないようにならないといけないわね。それが神として、完璧なる一人前の神としては当たり前のこと。人間の友達なんて、懐かしくなんて……思い出なんてっ! 忘れようとしても忘れられないなら、忘れることはないわ。ええ、無理に忘れる必要なんてないのよ。
忘れようとしているからこそ、意識しちゃって忘れられないってこともあるじゃない。それよりも、考えないでいた方がきっと忘れられる。思い出はどんなに大切なことだって、命よりも大切にしたいと願った約束だって、いつの間にか過去として薄れていってしまうものだって言うから。
「それも、そうよね……。私たちの幸せな世界が、誰かにとっても幸せの世界であるわ。それに、私が幸せな世を生きること、凛子もまどかも……前大神様も望んでくれたことでしょうから」




