平和の罠に
legend stoneが作られたのは、良いことなのかしら。もう私が知っている妖精はいないわ。乱れに乱れ、魔物たちが暴れ回ったあの世界を、知っている存在はもう神の他にいなくなっている。いつの間にか、それだけの時が流れてしまっていたらしい。
もしかしたら、これが平和なのかもしれないわね。私のもとに広がっているのは平穏な日々。それだったら、こんな世も平和なのかもしれないわね。何度も繰り返されるものなのだから、それが通常なのだと考えることも出来るもの。
「姫神様、これが僕らの掴み取った平和なのでしょう。あの大神様がいなくなってから、幼い頃のような、幸せな日々が取り戻せたのですから。そう考えると、戦い続けた努力も無駄じゃなかったのですね。鬼神である僕がと、女神である貴方が、あそこまで苦戦を強いられたのですから」
人間界を眺めていた私に、羅刹は微笑みながら声を掛けてきた。彼の微笑みは作られたものではなく、本当に幸せそうな微笑みだった。これ以上ないくらいに幸せそうな微笑みだから、その表情に私は平和を見た。
「そうね。呪いに掛けられて、人間界を彷徨って、ときに貴方のことを疑ったりもしたわ。それでも貴方は、隣で私を支えていてくれた。一時的にではあるけれど、神としての力を捨ててまで、貴方は陽香の隣に来てくれたのよね。神である私たちからしては、努力したのも苦しんだのも、あれっきりでしょうね」
努力している人間たちを嘲笑い気味に、私と羅刹はそんな会話を交わしていた。あのとき、十分私たちは努力をしたわ。十分苦しんだし悲しんだ、十分過ぎるくらいに戦ったわ。それだったら、平和を楽しむ資格だってある筈よね。平和があるのは、私たちのおかげだと言っても過言じゃないくらいなんだから。
にしても、罪悪感を感じてしまうほどの平和ね。今また、人間界に降り立って戦えと言われても、今の私じゃきっと無理ね。むしろあれは、陽香という呪いがあったからこそ、戦えたのかもしれないわ。それだったら、あの大神様はそこでも私を思っていてくれた、そう取ることも出来ないではないわね。
「ははは、失礼しちゃいます。それではまるで、僕らが楽をしているみたいではありませんか。神として、努力くらいはしていますよ」
平和にボケてしまいそう。ここまで誰にも憚られることのない、素敵な時間を過ごしていると、平和ボケしてしまいそうね。これも梨乃の、夜叉姫の努力のおかげなのでしょうね。ああ、感謝しないといけないわ。




