繰り返させない
羅刹が言わんとすることを、私はやっと理解することが出来たわ。夜叉姫が大神と言う役職に就くことは叶わないけれど、山瀬梨乃ならば別だわ。全てが無に戻された今ならば、梨乃は大神様と呼ばれる存在にもなれる。
「名前だけでいいのね? それならば喜んで協力するわ」
凛子は魔王だった。誰がなんと言おうとも、いかに彼女が優しかろうとも、その事実は曲げられるものではない。彼女自身が自ら魔王を名乗り、魔を率いているのだ。それを魔王と呼ばずしてなんとしようか。
だが、凛子は悪ではなかった。確かに魔王ではあるけれど、決して悪ではなかった。差別をなくす為に立ち上がった、優しい少女だった。制御出来ないほどの力を抱え苦しみながらも、全てに耐える強さを持って、苦しみは見せずに戦い続けてきた。孤独な戦いを続けてきた。
忌み嫌われようとも、悪と呼ばれようとも、彼女は悲しみを表には出さなかった。最終的に世界を平和へと導けるのならば、その途中過程や自分がどうなるかなどどうでもいい。自分を悪として正義を作ろうとするような、そんな性格だったのだ。
だから多くに嫌われながらも、彼女を知るものからは憧れや尊敬をも超える信頼を得てきた。鬼神や鬼の長のような存在や、女神のような存在からも信頼を得てきたほどの人物だわ。それは並大抵の器ではないからこそ、出来ることなのである。
それならば、彼女を大神様として崇める以外に道はあろうか。ただしそれでは古い時代を築き上げてきた、神や天使の一部が反発するだろう。正義を気取りながら、魔王という肩書を持った凛子のことを否定するだろう。そうしたら、これチャンスと言わんばかりに私のことも消してくるかもしれないわね。
それを考えたら、大神を凛子にするべきではないのでしょう。凛子は魔王としての道を選んだのだし、今聞いたところで彼女はきっとそれを曲げはしないわ。けれど魔王と共にいた梨乃はもう消えたし、人々から恐れられている夜叉姫だって、今やもういない。ならば、山瀬梨乃は大神様へとなれるのだろう。
「的確な判断を下すことは出来ない。あの悲劇を繰り返してしまうことでしょう。それでも、名前だけでいて、全てを彼女が治めてくれるなら別だわ。きっと素敵な世界を作れる、きっと……、きっとね」
もう夜叉姫の協力を得ることが出来ているのだから、あとは当の凛子だけね。平和な世を望んでいた、平和な世を自ら作り上げようとしていた。その筈だから、断りはしないでしょう。世界征服を謳う魔王軍は悪として見做されてい、実の凛子はそうでないように思われた。けれど世界を治めようとするのは事実の筈だわ。




