新世界へと
「大神様は必要でしょう。絶対的な力の持ち主、全てを統括するもの。それが存在しなければ、完全なる力を求めるものが他のものを蹴落とし始めます。そこで全ての基準となるもの、即ち大神様が必要なのです」
どうやら羅刹と私と同じ考えのようで、夜叉姫に優しく説明をした。彼女は更に悲しそうな表情をしたけれど、羅刹の言わんとすることは理解したらしい。力など要らないとする私たちには分からない気持ちだけれど、多くのものは力を求める。特に力を持つものに限り、もっと大きな力をと争いを生むの。
どうせ力なんて持っていたところで、大切な人を傷付けてしまうだけだと言うのに。自由を失ってしまう、それだけのことなのに。力なんてなければいい。こんな力さえ持っていなければ、私も羅刹も夜叉姫も、凛子も妖精たちも大神様も、誰も傷付かなくて済んだ。
そんなことを恨んでも仕方がないというのに、何度自分の力を恨んだことかしら。けれど陽香は力を欲していたようだから、私にもそうした心が全くないという訳ではないのでしょうね。心なんて言うのは、結局そういうものなのよね。
「付け足すならば、大神様が優し過ぎるのも良いとは言えません。ときに残刻さも持ち合わせている方でなければ、きっと壊れてしまうでしょう。一人で罪も痛みも背負っているようなものなのですから」
瞳には何も映さない。不思議な表情で、でも強い意志を持って羅刹はそう言った。
「強いお方でなければいけません。しかし、言わずもがな自分勝手な方は大神という役職に就くことなど出来ません。あれほどの適任、いなかったのかもしれませんね」
彼に悪気がないのは分かっているのだけれど、彼の言葉の一言一言が私を責めているように思えた。その適任を惑わせてしまったのも狂わせてしまったのも、死なせてしまったのも全て私なのだから。
「良い世界を作り良い関係を築く為に、あれが適任であったかと問われればそうではありませんがね。傷付いてでも他人の為に働ける、強いけれど繊細な心を持っている。そんな方を探さなければならないのですから、大変です」
この表情、何か考えがあるのかしら。私は羅刹のことならば知っているつもりである。彼が今浮かべている表情は、考えがあるときの表情である。もしかして、次期大神様に任命する人をもう既に用意しているということなのかしら。
「凛子さんがその全てに当てはまるでしょう。そこでご協力頂くのは、梨乃さんなのです。凛子さんに直接、大神という役職に就いて頂くことは出来ませんから。それで宜しいのでしょう?」




