運命の運命
こうして人間界には人間のみとなった。使い果たされた魔力ゆえに、人間以外の種族は住まうことが出来ないのである。今や妖精さえも、なのだ。全魔力を吸収して全てを封印してまで解いてくれた私の呪いは、もう発動などしないのでしょう。
でも私のせいで、世界を変えてしまったわ。一つの世界だけじゃなくて、数多くの世界を狂わせてしまった。それは嬉しくもあり、悲しくもあること。そしてそれは、姫神として生まれたものの宿命でもあること。
私を我が物にしようと、大神様は多くの人を苦しめた。彼が罪のない人に試練を与えたり、意味もなく命を奪ったのは、私に対して見せつけてやる為であった。つまりは私を従わせるだけの為に、私ではなく関係のない人々を傷付けた、という訳である。
大神様の標的が決まって人間であったのは、私が人間を好んでいたせいなのでしょう。そう、それさえも私のせいだというの。人間が好きと言っておきながら、人間を苦しめていたのは私自身であったの。私が守ろうとしているせいで、人間は苦しめられていたの。
その中には、大神様の優しさだって含まれていたのでしょう。勿論、人間へ向けた優しさではなく私へ向けた優しさがね。人間が苦しまなければ、私は人間を救い英雄となることなど叶わないのだから。そうして人間を救ったが為に神界から追放され、無事に私は人間から称えられ崇められるような存在になった訳ね。
私の自己満足の為に、多くの人間に迷惑を掛けてしまった。人間が苦しんだのも私のせいだし、人間が救われたのも私のおかげ。思えば、妖精の仲を良くさせたのも私だし、喧嘩させたのも仲直りさせたのも離れ離れにしたのも、全て私だったわ。
思い返してみれば、他の種族に関しても、全部私だったんだわ。今だってそう。自分で事件のきっかけを作り、名探偵気取りで解決していく。これじゃあまるで、自作自演の酷い詐欺師じゃない。全てを翻弄するという運命に、私は翻弄されてしまっていたのね。
「二人とも、ありがとうね。これからは、ずっと一緒だからね。誰に何と言われても、二人を手放したりはしない。だから、ずっと一緒にいようね」
俯きながら、聞こえるか聞こえないくらいの声で、私はそう呟いた。でも声は届いていないとしても、この気持ちは確実に届いているのでしょう。夜叉姫も羅刹も、穏やかな微笑みを浮かべていた。まるでこの世界が平和になったとでも言うような、そんな表情をしていた。




