力の解放
流れ出す水のように、夜叉姫の口からは悲しみが溢れ出ていた。いつの間にか、もう姿も山瀬梨乃ではなく夜叉姫に戻っている。そして川崎悠馬も、羅刹の姿に戻っていたのだ。それはつまり、私の呪いの力が弱まっているということなのね。
「早く、私のことを殺してよ。一緒にいられないなら、また孤独を生きるくらいなら、地獄で友を作りたい。地獄でならば、誰も私のことを置いては行かない。いつまでも皆と一緒にいられるわ」
悲しげに語る夜叉姫。その姿をじっと見つめる羅刹。その二人に触れようとするけれど、動けない。って、あれ? 動けた。私は自分が動くことの出来ると、やっと気付いた。けれど、二人ともそれには気付いていない様子。
「夜叉姫は、鬼ではなく神である」
ちゃんと声が届くように、凛とした声、ちゃんと声を張って、私はそう言った。全ての世界にこの言葉が届くように、夜叉姫を正真正銘神としてあげる為に。だって神にしてあげれば、私や羅刹と一緒にいたって誰も文句は言えない筈だものね。
「姫神様なのですか? 姫神様、なのですね」
立ち上がった私に、羅刹は嬉しそうに飛び付いてきた。
「それはつまり、二人と友達でいてもいいってこと? 私はこんなに酷いことをしたのに、友達でいてもいいの? 散々皆を傷付けて、人の世を掻き回して、多くの命を奪った。そんな私を許してくれるというの?」
私では浮かべられないような、本当に美しい表情を夜叉姫は浮かべた。そうして、耳を疑うようなことを口にした。
「だったら、呪いも解いてあげる。力を解放しましょう」
夜叉姫が短い呪文を唱えると、私は完全に姫神の姿に戻った。そして全てのストーンが弾け飛び、それを追って妖精たちもいなくなった。気配から察するに、人間以外の種族も消えたんだと思う。どこかにいなくなったというよりは、それらを封印したという方が正しいのかしら。
私の呪いを解く為に、どうやら何もかも全ての魔力を使い果たしたようね。まさか、夜叉姫にこのような力があるとは思わなかったわ。これが夜叉姫の、いいえ、梨乃の本当の力ということなのかしら。
「何もなくなった。何も、なくなってしまったわ。でもここからまた、新しく世界を作っていけるのね。今度こそ世界を、新しく出来るのね」
声を発したけれど、魔力が使われたという様子もなかった。つまり、本当に私の呪いは解けたということになる。陽香が呪いにより変えてしまったことも、私がしっかり戻しておいた。それで使った魔力がなくなり魔力量も人間界に相応しいくらいになったし、これで本当に元通りってことね。




