孤独な種族
「梨乃さん、お逃げ下さい。梨乃さん、いいえ、夜叉姫様! 僕は貴方に死んで欲しくありません。だからっ! だから夜叉姫様もお逃げ下さい! だって僕は、貴方を守ることが出来ないから」
陽香が戸惑っているうちに、羅刹が気絶をさせてくれたらしい。これだけ陽香を弱らせてくれれば、私だって考えることくらいは出来るわ。今しかないから、姫神に戻る方法を探さなければならないわね。
しかし羅刹にはそのつもりもなかったらしい。陽香にこれ以上喋られないようにと気絶させた、ただそれだけみたいね。まあなんにせよ、私には今しかないんだわ。
気付いていないようだから羅刹から戻る為の情報を貰うことは出来ないけれど、普通の会話だって情報くらいは貰えるわ。それに、羅刹は私に無理をさせまいとしている。私から呪いを解く方法なんて、確実で簡単でなければくれるとは思えないわ。だって彼は優しいから、私に甘いからさ。
「夜叉姫様、早くお逃げ下さい。貴方か姫神様か、どちらか一人しか救えないとなれば、確実に僕は姫神様を選んでしまいます。それはたとえ、呪いに掛けられ姫神様の記憶は持っていないとしても。姫神様に戻ってくれる可能性が少しでもあるならば、僕はそちらを取ってしまいます」
残酷な言い方だけれど、やはり羅刹は優しいのね。夜叉姫のことまで救おうと努力するのだから、本当に優しい人だわ。聞いていないと思っているから言える言葉なのかしら。だったらそれは大抵本音、ということよね。だからこそ、面と向かって言われるよりも嬉しいわ。
慎重に時間を掛けて、羅刹は私を取り戻そうとしてくれる。それは本当に本当に嬉しいことなのだけれど、辛いな。その為にどれだけ周りを傷付け犠牲にし、羅刹はどれだけ恨まれなければならないのかしら。自己犠牲は嫌いだけれど、自分の為に関係のない相手まで犠牲になってしまうのは嫌だわ。
「馬鹿にしないで。鬼ってのはね、基本的に不老不死なのよ。特に長である私は、そう簡単に死んだりしないわ。死んだりなんてしないの、本人が死にたいと願っていても、永い時間をこの世で過ごすしかないの。どんなに親しくなろうとも愛しく想おうとも、他の種族は生きて数百年程度。変わらぬ時間を生きれるのは神のみ。それなのに、神との接触は許されない。鬼として生まれただけなのに、どうしてこのような孤独を味合わなければいけないのですか? この孤独から解放されるのならば、殺されても構わないわ。友達に殺して貰えるなんて、そんな幸せはないでしょう」




