華は散る
ここにいるのは、姫神と羅刹と夜叉姫。古くから共に過ごし、遊び回った素晴らしい日々。懐かしい面々なのよ。小鳥遊陽香、川崎悠馬、山瀬梨乃。そんな特に見知らぬ人間三人ではなく、何千年も寄り添った友人なのよ。出会って数週や数か月、その程度の関係じゃないのよ。
それに、せめて姫神であれば呪いを制限出来るかもしれないわ。呪いの存在を知っているんだから、気を付けることくらいは出来るもの。声を漏らしてしまうことはまだあるけれど、それだっていずれは声を出すこともなくなるでしょう。それなのに、悔しいわ。
陽香自身が、以前大神様が掛けた私への呪い。呪いと呪いを重ねたから、ここまで大きな呪いへとなってしまった。ここまでの呪いを、本当に最後まで性格の悪いお人だわ。性格の悪い神の中でも選ばれし神なんだから、もう選抜された性格の悪さだものね。
私を愛してくれていたがゆえ、私を苦しめる。他の生き物は想い人の為に生きるけれど、神は違う。愛するものは苦しめ、苦を与え、そうして守りながらも服従させる。洗脳して相手の力を封じることが、真っ先にやるべきことなのよ。特に強ければ強いほど、言い掛かりに等しいような理由を付けてね。
私の場合は言い掛かりでも何でもなく、裁かれるべき罪をいくつも免れて来たんだけど。本当に最低だわ。いっそ、正確に罪を裁いて欲しい。それならばきっと、私は死罪となり地獄も地獄、大地獄へと誘われたことでしょう。でも生き地獄よりは、実際の地獄の方がまだまし。
大神様がいない今、私を殺せる存在こそ少ないんでしょうね。殺して欲しいというのも、生きたくても生きられない皆に失礼よね。それでも私は、呪われたままで生きていくなんて嫌。陽香が皆を傷付ける姿を、何も出来ずに眺めているだけなんて……そんなの絶対に嫌なのよ。
どうしたらこの呪いから解放されるのかしら。また呪いに掛かったのだから、昔掛けられた呪いは解いてくれたっていいじゃない。それどころか更に重くなるなんて、そんなの可笑しいわ。ああ、声が出ない。ああ、体が動かない。ああ、考えることも出来なくなっていくのね。
このまま私が全てを失い、陽香が残ったとしたら。姫神と言う存在は完全に消え去り、陽香が人間らしく死んでも、大神様は私に会うことが叶わない。陽香という呪いを強めたのは、それを望んでいると言うことなのかしら。ちょっと、大神様を馬鹿にし過ぎちゃったのかしら。もう限界だわ。




