貴方なんて嫌い
「へっ、面白いじゃん。本気で戦うつもりなんだ」
私の嫌いな笑顔を浮かべて、大神様はそう言った。今ここで私を殺そうと言うつもりはないらしく、気持ち悪い笑顔を浮かべ続けている。だから私もそれに対抗するかのように、出来る限り優しい微笑みを浮かべ続けていた。
だって私は女神なのだから。女神として、慈愛の表情を作っているしかないの。大神様に全てが従わなければならないのと、それは同じ原理なの。だから私は両方を壊してみせる、必ずね。
絶対に大神様には従わなければならない。絶対に鬼神は嫌われ者の名を背負わなければならない。絶対に女神は清らかでなければならない。絶対に魔物は醜いもので、魔王は全ての敵でいなければならない。何も悪いことをしていないのに悪でなければならないものや、正義の名を守らなければならないもの。
そんなの可笑しいわ。だからそんな腐った世界を、私が壊してやるの。生まれた種族や名前だけで差別するなんて、そんなこと可笑しいから。高貴な女神として産まれ、大神様にまで好かれた。なんの努力をしたわけでもないのに、私はこんなにも恵まれている。
だからこそ、恵まれている私だからこそ訴えられることもあると思うの。恨まれ妬まれ、お前のせいだと言う声もあるかもしれない。それでもね、恵まれなかったものが訴えてもそれは負け惜しみとしか思われず、誰も耳を傾けてはくれないわ。だから私が戦わなければならないの。
「なんだ? その顔は。どうしたんだよ。姫神ちゃん」
にやにやと笑う大神様は本当に吐き気がするほど気持ちが悪いのだけれど、今の私には耐えることしか出来ない。無謀な戦いを挑むつもりはないのだから。
「いいえ、なんでもございません。私はただ大神様が嫌いなだけでございます」
微笑みを全く崩すことなくそう口にするのだが、いつものこと過ぎて大神様の方も全く表情を変えようとしない。本来ならば、こんなことを言われれば大神様は激怒するに決まっているわ。どんな目に遭わせられるか分からないから、無理にでも媚びを売ろうとするでしょう。
そんな臆病者ばかりだから世界は変わらないんだってのに。革命を恐れていては、暗黒の世界へ光が注ぐことは永遠にない。誰か一人が勇気を出して、他の皆がそれを支えてくれないと革命にはならないわ。
「嫌い、かぁ。随分とハッキリ言ってくれるね。そんな姫神ちゃんも好きだよ」
大神様の好きと言う言葉は、滅多に発せられることがないと言う。何もかもが嫌で、イチャモン付けてばかり、嫌い嫌いと壊し殺し滅茶苦茶にして。少しばかり気に入ったとしても、最高とまで思わせなければ目を付けられたものが生き残ることなど出来ない。それが大神様なの。




