姫神の覚悟
必要のない存在とまで言う必要はないんじゃないかしら。でも羅刹のその言葉で納得できたわ。教育や訓練も行わなくなったとは聞いたけれど、神があそこまで弱いかと不思議だったのよ。神に成り損ねたに等しい、所謂負け組をここに送り込んできたと言う訳ね。
つまりその命を犠牲にして、私達の戦力を調べた。ただの囮と言うこと。それならば、やはりストーンを使わず力を隠しておいたのは正解だったわね。気が付かなかったから、私は全力で戦っちゃってたけど。
「姫神様、覚悟は出来ているのですよね? 本当に危険となれば、封印を解くことも考えておいて下さい」
ストーンの力を使って大きなバリアを張り、全員をその中に入れる。そして人間たちから少し距離を取ると、羅刹はそんなことまで言い出した。
神としての武器を使うと言うだけではない。それでも足りなければ、神として戦えと羅刹は言うのだ。正義よりも悪が強いのは確か。正義が悪に勝つのも、確かなことなの。悪となってまで、悪を倒したくない。
私はそう思った。しかし脳裏に凜子の顔が浮かび、そんなことは言っていられないと思った。悪に反する為に魔王となり、正義の魔王にまでなった強い少女。そうか。戦う覚悟と言うのは、それほどのことだったのね。
「分かったわ。でも戦いが終わったら、羅刹がちゃんと封印し直してね? 誰も傷付けたくないの」
自分の力で暴走を止めることなんてほぼ不可能。暴れ出した私を止められるのはこの中に一人、羅刹だけだわ。羅刹は封印を解いたとしても、ちゃんと自分の力を制御出来る。私とは違い、優秀な神だから。
誰も傷付けたくない。その想いを分かってくれたようで、羅刹は小さく頷いてくれる。この戦いで守るのは自分じゃない、世界よ。正義の肩書きを守るんじゃなく、この世界の悪を倒して正義を守るのよ。今の私ならそれが出来る筈だわ。
「封印出来ないほどに暴れてたら、……殺して頂戴。暴れてしまったら、それはもう貴方の敵と同じなのだから」
これくらいの覚悟が必要だったのね。どうして気付けなかったのかしら。私の決死のお願いに、羅刹は悲しそうな表情で頷いてくれる。
自分を守るんじゃない。自分だけを守っているような奴、正義とは呼べないわ。悪を決め付けそれを懲らしめるだけじゃ、正義とは呼べないわ。それを、二人の魔王が教えてくれた。悔しいけど、あのクズ魔王も私を成長させてくれたのだから感謝しないとよね。まどかの死も無駄にはしないわ。




