神の本能
羅刹は鬼神として、神を殺すつもりでいるらしい。ステッキではなく、正式なる武器で容赦なく神の首を切って行く。神としての力を使わなければ、神を殺すことは出来ない。だから、止めは私と羅刹にしかさせないのだ。
羅刹だけに任せてはいられないわね。同じ神として、責任を持って私が殺さなければいけない。私も、ここで使うべき武器はステッキではない。本来は命を救う為に使われる弓矢で、私はかつて神と呼ばれたものを射ち殺して行く。
神が死ぬと、癒しと悲しみが降り注ぐ筈である。でもこの薄汚れた神々を殺すときに出るのは、醜い欲望だけだった。命乞いなど全く聞かずに、私たちは次々と神を殺していった。
絶望に満ちた表情で、なんの抵抗も出来ずに自分の首と体が切り離される。死に際の表情は、やはり美しいと思わざるを得なかった。殺すのは嫌いだけれど、本能が目覚めてしまうの。途中から楽しくなってしまっていた、そう感じてしまっている私もいた。
傷が溢れてくる、ドロドロとした醜い液体。私はそれに塗れて汚れ穢れて行くけれど、そんなことすら気にならなかった。救う、その想いはいつからか復讐に変わってしまっていた。そうして私たちは、神々の襲撃を無事に切り抜けた。
「やはり、もう今の僕は神ではないのでしょう。あの頃は楽々と振り回していたあの武器が、妙に重くなっていました。少し負担が大きいので、やはり戦闘時はステッキを使うことに致しましょう。止むを得ない場面にのみ使うこととしましょうか」
気付けば、私はボロボロだった。今までなんともなかったのに、傷を見た途端急激に痛み出す。ダメージも大きいようね。今の非力さを痛感し、羅刹の言葉に頷いた。
戦闘に参加した全員が、息を切らしてへとへとになっていた。傷を負ってしまったものも多くいる様子。妖精たちと人間たちは心配そうに寄ってくる。しかし傷くらいなんてことない。天使も女神もいるのだし、いざとなればストーンを使えばいいのだから。
「そうね。ステッキは、正義の武器だから。正義として、悪を裁かないといけないから」
今の私は非力。神だった頃の方が、頭は悪かったけれど力があったのは確か。でも悪政の限りを尽くすあいつらと同類になんかなりたくないもの。壊す為の力ならば、守る為の頭があった方が良い。
「しかしどこまでも卑劣な奴らですね。先程訪れたのは、力を得ることが出来ないまま年老いてしまった、そんな神々でしょう。恐らく、必要のない存在」




