大天使の下へと
「心配し過ぎよ。まあ、貴方が言うならそうするわ」
羅刹が着いて来てくれない為、知略者が別に必要だと考えた。だからとりあえず、決定事項としてブックちゃんは連れて行くことにした。その他にも、率先して着いて来ると言ってくれた数名を連れて出発する。
「急ぎましょう。この間に、神が何をするか分かりません」
ブックちゃんがそう言うので、私と凜子は頷き合いスピードを上げる。ここから上空に飛んで行けば、辿り着くことが出来る筈よ。神であった私からすれば、そんなの大した距離でもない。
「もうすぐ着くと思う。危ないから目を瞑って」
かなり高くなった頃、凜子はそう呟くように言って妖精たちを自分の胸に抱いた。私や凛子ならば耐えることが出来るけれど、妖精にとっては苦しくなってくることでしょう。
「こんにちは。協力して貰いたくて来たのだけど」
まず天使の方から話を付けようと、大天使の下へ向かった。私の姿を見ると、容易に会わせてくれる。もうちょっと警戒心を上げたらどう? 平和な天使の中では必要ない心なのかもしれないけどさ。
「神が横暴を働いているの。女神として、それを私が止めないといけないと思って。それでも私だけの力では無理だわ。お願い、私を助けて」
天使の中では、案外女神は絶対主義だったりするの。だから私が救ってくれと願えば、きっと協力をしてくれる筈。案の定大天使は私の話に頷いてくれた。
それだけじゃないの。共感してくれるだけでも嬉しいし、利用し甲斐があると思うでしょ? でもね、涙を流してまで悲しんでくれたの。私のでたらめ九割のほぼ作り話に。逆に利用し辛いくらいだわ。
「おいらは悪と呼ばれている。けどよぉ、本当の悪がなんなのか不思議になった。おいらは悪の立場として、皆に正義でいて貰う為働いた。それでも、あんな横暴を許す訳にはいかねぇ」
凜子の服の中からピョコッと顔を出し、ダークちゃんは語っていた。それは私も感心するほどの演技力で、苦しそうに悲しそうに。時々こちらに向ける笑顔がなければ、演技ではないと信じてしまいそうなほどであったわ。
そもそもな話、ダークちゃんの存在自体気が付かなかったわ。いつからいたのかと思ったら、いつどんなときにもいたと言うのが返答であった。妖精を誘き寄せようときたときも、ダークちゃんだけはそこにいたとのことらしい。
「腐り果ててしまった神界。それを正す為、私は魔王を名乗っているの。信じて、人間界に降り立てばきっと分かる筈だから」
最後に語った凜子の言葉は、きっと演技なんかじゃなかった。彼女は本心を語り掛け、訴えていた。だから、魔王と言う信じて貰い難い立場でも、大天使の説得をすることが出来たのだと思う。




