絶好のチャンス
「……もう無理」
意識を失い掛けてしまったわ。だから最後の力を振り絞って、これ以上は戦えないと羅刹に伝える。陽香の想いは、私が思っているよりもずっと強かったみたいなの。不完全の姫神では、小鳥遊陽香を止めることは出来ない。大神様から与えられた呪い、やはり強力ね。
それでも私は魔王なんかに屈したくないから。その為には、陽香を出す訳に行かない。彼女のことだから、きっと凜子を敵とみなすでしょう。ひょっとしたら、羅刹のことすら敵とみるかもしれないわ。そんな危険な奴、……っくそ。
なんで勝てないの? 私は神、彼女は人間。それで勝てないなんて、私はそれほどまでに人間を贔屓していたと言うことかしら。今更気付いても、仕方が無いことなんだけどね。今は悪を消すことに全力使いたい。
「姫神様、頑張って下さい」
ずっと羅刹は応援し続けてくれる。その声は、近付いたり遠ざかったり。届かなくなってしまったり。どんどん、どんどんどんどん声は聞こえなくなってくるんだ。陽香の力は強くて、抗えなくなってしまうんだ。
「凜子は近付かないで。陽香に、何されるか」
心配して凜子は来てくれるのだけれど、私はそれを追い払う。そして羅刹は、クズ魔王の相手をするように促してくれる。序でにまどかも連れて遠くまで行ってくれればいいのに。そうすれば、陽香だって少しは落ち着く筈よ。
正直、羅刹のことも心配だわ。隣にいると、暴れ出した陽香は真っ先に襲い掛かってしまうと思う。そして羅刹は、放って逃げることも攻撃し返すこともしないと思うから。
でも羅刹が隣にいてくれなければ、きっと私は戦えないわ。彼が応援してくれるから、私も頑張れるんだろうからさ。隣にいて欲しいけれど、隣にいないで欲しい。自分の気持ちが分からなくなってきて、じきに考えることも出来なくなる。姫神はまた封印されてしまうのかしら。
「姫神様は目覚めました! つまりこれは、何百年に一度しかないチャンスなのですっ! このままそれを無駄にしてしまってもいいのですか!? 姫神様!!」
初めて聞く、羅刹の怒鳴り声であった。それは眠り掛ける私を、確かに起こしてくれた。驚いて沢山のクズ共もこちらを向いてしまったようだけどね。
「ありがとう、目が覚めたわ。そうよね。このチャンス、無駄にする訳にはいかないわ。絶対に私は形にして見せる!」
ニッと笑い、私は跳んだ。そして地獄の空を解放して見せた。地獄も地上も天国も、神界すらなんの区別もなくなっている。だから私は、地獄に暮らすものを地上に上がらせようと思った。そうすれば、どこを目指すか分からなくなり希望も失うでしょう。楽園がないことを悟り、神を恨むことでしょう。




