私と私
二人の魔王に、私はそう言われた。悪の女神、美しい女神。私としては、勿論美しい女神と言って貰った方が嬉しいわ。それでも実際の私は、悪の女神の方が近いんじゃないかと思ってしまうの。そちらの方が正しいと思ってしまうの。
その後の言葉も、凜子は間違っていると思うわ。同じ志を持つ筈なのに、彼女はそう言った。それでも同じ志なんて持っていないんだから、理解出来ないのは当然だわ。
それに比べれば、まだ正しいことを言っている。だって言葉の意味はともかく、凜子も魔王には違いないのだから。ただ魔王ではあるけれど、同じ魔王ではない。だからこちらも、理解出来ないのは当然と言えるわね。
「私は、小鳥遊陽香よ。魔王なんかに、まどかは渡さないの。まどかのことは、私が守るの」
そんなこと言っていない。私はそんなこと言っていない。陽香が私に宿ろうとしている、というのはこういうことだったのね。それでも今、私は陽香に体を渡す訳にはいかない。私が陽香に負けてしまう訳にはいかない。
彼女が守ろうとしている、まどかの為にも。私が守りたいと願う、羅刹の為にも。私の為にも、陽香の為にも。そうしてこの場合、何よりも凜子の為に。ここで陽香に体を渡してしまう訳にはいかないのよ。
そんな思いとは裏腹に、私は自由を奪われて行く。体を動かすことは愚か、考えることすらままならなくなってしまう。それだけは、意識だけは保たなければいけない。陽香に乗っ取られたとしても、大人しく眠っている訳にはいかないわ。
確かに陽香が現れてしまえば、私の体は私が動かすことなど出来ない。私の想いは言葉になんてならない。それでも陽香が去ったときの為、情景を見ていないといけない。状況の把握をし易くする為、見ることだけでもしないといけない。
どうすればいいのよ。意識を失おうとしている、視界が奪われて行く。どうすればいいの? 私はどうすればいいのよ。負けてはいけない、戦わなければいけない。凜子がそうしているように、私も戦わなければいけない。だって、敵は他でもない私自身なのだから。
「負ける訳にはいかないのよっ!」
驚いた。心の中で叫びたい、私を失わないよう叫びたい。その程度の願いしかなかった、その程度の言葉だと思っていた。それなのに、陽香に勝利して声になり口から出て来た。それでもまどかがいる以上、いつまた陽香が出てくるか分からないわ。なんとかしないと。
それでもさっき陽香が出て来てしまった。私を失ってしまった。そのせいで、まどかの影響の大きさを奴は改めて感じた筈。重要性を更に感じ、警戒心を上げるでしょう。絶対に離さないつもりでしょう。だって奴はバカなんかじゃないから。




