腐り果てた神界
「作れる。腐った部分を浄化すれば、命を奪わなくとも人は良くなるのだから問題ない。そして、新しく平和な世を作るんだ」
凜子は断言した。決意と覚悟があるから、彼女は強い。私は口だけ、それでも凜子は実行に移す勇気も持っている。だから断言し、その言葉に重みもある。
”消さないで。私を消さないで。私の時間を消さないで。私の記憶を消さないで。姫神様、お願いします”
決して同じではない二人の魔王。警戒しながらも二人を見つめていると、頭の中にそんな声が聞えて来た。その声は私のもの、理解が出来なかった。
「まどかさんを再び見ることにより、陽香さんは怯えてしまっています。そして自分を取り戻し、姫神様にもう一度宿ろうとなさっておられるのでしょう。陽香さんが危険です」
私の様子に気付いてか、小声で悠馬が解説してくれる。まどかと旅をしたのは、神である私ではなく人間である陽香。つまりまどかを見ると、陽香が目を覚ましてしまう。
「神によって殺された。あいつはそう言ったわ。それならば、陽香と言う人間に殺されたことになるじゃない。どうしてまどかの魂は彷徨う必要があるのよ」
その問い掛けは、してはいけないものだったらしい。悲しそうな表情をして、羅刹は私に頭を下げた。悲しそうな表情をして、微笑みながらその理由を教えてくれた。
「僕の判断ミスです。貴方を苦しめまいと思い、僕が殺してしまったのです。不法に鬼神が人間の命を奪えば、と言う訳ですね。それに鬼神と言うのは神の中でも力を持っています。鬼神の手で殺された魂、裁くのが億劫だったのでしょう。そうして後回しにされているうち、捕まってしまったと推測します」
謝ることないじゃない。それだったら、悪いのは羅刹ではないわ。そこまで神界が腐り果てていただなんて、絶望だわ。羅刹が悪いと言う訳ではないけれど、鬼神に奪われた憐れな命ならばむしろ優先してあげるべき。だって、神により罪がないのに失ってしまった命なのよ。
神として、しっかり裁いてあげるべき。それか、もう一度やり直してあげないさいよ。これはさすがに不平等を生むかもしれないけれど、死ぬべきでなかったものが死んだのだから。生き返らせろとは言わないけれど、もう一度やり直させてあげなさいよ。
「悪の女神さんや、助けてはくれないかい? 同じ魔王だと言うのに、全く理解してくれないんだ」
「美しい女神さん、助けてくれないかな? 同じ志を持つはずなのに、何も理解してくれないんだ」




