魔王の性
「どうして苦しめたいの? そんなことしても、楽しくないじゃん。仲良くした方が、ずっと楽しいよ」
一度戦った私や羅刹は、そんな言葉がどれだけ無駄な物なのか分かっている。それでも初めて会うと言うことあってか、凜子は優しい言葉を投げ掛けていた。
「いいや、苦しめた方が愉快でいい。人間や神、ましては妖精だ天使だ? 仲良くなんて出来ない。身を以てそれを理解しただろう」
その言葉を私は否定することが出来なかった。苦しめた方が楽しい。それには同意しかねたけれど、仲良くなんて出来ないと言うのはその通りだと思う。結局、自分のことしか思っていないのだから。だから、仲良くなんて出来ないんだって。
普通は、それを理解するわ。私だって、人間界を彷徨うことにより痛感したわ。それでも凜子は違うの。自分を犠牲にし平和の為に戦う、それが本当に出来る人だから。
「仲良く出来ないなんて、そんなことない。まず、貴方が皆に謝るの。そうしたら、きっと安心して暮らせる。そうしたら、どの世界からも争いは消える」
甘過ぎた。凜子の言葉は、凜子の考えは甘過ぎた。なんでも上手く行くと思っていた、幼い頃の私。でも凜子はその何倍も甘く、何倍も優しく強かった。
「それに、また争いを繰り返させるものは私が許さない。私が新しい神となり、全てを平和に導くの」
確かに新しい神になる。という発言だけを聞けば、強欲な人にも思えるだろう。本当はその逆だと言うのに。全てを守る為、自分が罪を請け負う。それはあまりにも悲しくて、優しい少女。そんな運命を辿らないで欲しい。正直そうも思っている。
凜子のこと、応援はするけれど。彼女自身がそれを望むなら、私は別に止めたりしない。また余計なことをして失うのは嫌、そんなことを恐れているのかもしれない。少し人任せなところが出てしまっているのかもしれない。
それでも私は凛子のことを応援したい。誰かに凜子を止めて欲しいと願いながら、自分では凜子を応援する。全て人任せ、私らしいと言えるやり方。
「はっはっはっは! 平和? 笑わせるな。魔王という名を聞いただけで、人間共はお前を避けた! そんな奴らと、どう仲良くなれと? そんな奴らが、平和などを作れると!?」
私が言われている訳ではない。それなのに、私は怒り出してしまいそうだった。しかしそんな中でも、凜子はまだ笑っている。罪なき命を守る為、凜子は涙を捨て笑顔を浮かべていると言う。皮肉なものね。処刑せざるを得ない場面でも笑わないといけないなんて。
どんなときにも笑顔を浮かべている。そのことにより、殺すことを楽しんでいるんだと思われてしまった。クズのような魔王と、完全に同類だと判断されてしまったのだ。




