もう一人の危機
「神によって殺されたからだ。正しく裁かれず、魂は彷徨ってしまう。そしてそれを私が捕まえてあげたのだ」
つまり、私のせいだと言うの? しかし怒りを買いたいならば、そんなことを言う必要はない。私の責任ならば、私が怒る意味が分からないのだから。
いや、こいつは幼い私の姿しか知らない。確かに幼かった私は、自業自得と言われても怒っていた。こいつを殺し神の権限を奪われたときも、私が悪いけれど腹を立てていた。しかし今の私はそこまで子供ではないわ。
「それじゃあ、正しく裁いてあげるわ。殺してしまった私が、責任を持って正しくね。まどかのことも、貴方のことも」
冷静でいられるように、羅刹が私の手を握っていてくれる。その想いを無駄にしない為にも、私は冷静でいないといけないの。
「それはありがとう。でも、今のお前にそんな力はない筈だ」
確かに言う通りね。今の私にはなんの力もない。もうすぐ神に戻るから、そうしたらこいつを裁く。正しい観点で判断し、不平等のない素晴らしい神になるわ。
「陽香さんが危険です」
そう囁く羅刹の声が聞えた。凜子の声も聞こえるけれど、何を言っているかは聞き取れなかった。どうせ私が聞いても仕方がないことだから、耳を澄ましもしないけれど。
「そっちはコソコソ何を話しているんだ? ピンチ報告かい」
彼の耳の良さは知っている。問い掛けたりしなくても、全てハッキリ聞き取れているのであろう。いや、羅刹も凜子も言葉を発していないんだわ。
「新しい能力をここで身に付けたのですか? このような腐った場所で。それならば、もっと日の光に当たる整備されし場所に着てはどうでしょう。その方がもっと強く、もっと強くなれますよ」
以前は耳が良かっただけだわ。それでも、考えていることを声とするまでの力を手に入れている。残念なのは、自分以外にもそれが聞こえてしまうと言うところね。ただその声は、羅刹や凜子本人には聞こえていなかった様子。
反対に、彼の下から音は発せられていると考えていいのかしら。だからより近くにいる私には聞こえたけれど、後ろにいた二人には聞こえなかった。
「もう力などいらない。強くなりたいなど、微塵も思っていない。ただお前らを苦しめたいだけだ! ここに来た魂を潰していたが、それではやはり満たされない」
さらっと聞き流そうとしていたけれど、魂を潰していたの? そんなのを見逃すなんて、本当に腐り果てた神界ね。私が早く変えないといけないわ。




