幸せと罪
「こっちに来て。魔王の城へと案内する」
警戒心がない訳ではないのであろう。それでも凜子は、私たちを魔王の城にまで連れて来てくれた。本当に素直な少女なのね。だからこそ私は、あいつを裁かなければいけないんだわ。
「ありがとうございます。ここからならば、地獄への侵入も容易でしょう? さて、戦うとしますか」
微笑んだ羅刹は、ステッキを二つ呼び寄せる。一つは自分で構え、一つは私に渡してくれる。今のこの状態であいつに勝てるかしら。私は不安だった。でも羅刹は私よりも慎重に行動するわ。彼が動こうと言うのなら、きっと何か策略があるのね。
そう思った私は、羅刹が開いた穴を潜り抜ける。魔界だって、十分悲惨な姿をしている。それでも地獄は比べ物にならないほど、絶望や破壊に満ち溢れた場所。何度訪れても、悲しみは込み上げてくる。最低最悪の、神によって壊された場所。
「久しぶりだな。お前をずっと待ってたんだよ」
入った途端、目の前にあいつは姿を現した。以前会ったときとは比べ物にならない、みすぼらしい姿をしている。ずっと地獄できつい日々を耐え続けて来たのでしょう。私に会う為に。
「久しぶりね。貴方から来てくれて嬉しいわ。探す手間が省けたもの、ありがとう」
乱してはいけない。どんなに内面取り乱していても、冷静さを装わなければいけない。私はずっと自分に言い聞かせ続けた。挑発に乗らない、そう決意し短気な私を捨てる。
余程私が憎いらしく、ずっと攻撃をしようとしている。それに対し、私はやり返さずに全て弾く。攻撃するのではなく、私は防御し続けた。もう一度殺しに来た訳ではなく、神によって裁きに来たのだから。攻撃はしないように気を付けた。
「お前から攻撃するつもりはない、と? はん、いつまで我慢出来るか」
そう言って、手の上に小さな灯を。きっとそれは、人間の魂であろう。なぜそのような物を持っているのかと不思議に思いながらも、何をするのか気になって見てしまっていた。その魂に息を吹きこむと、どんどん人間の形が出来ていく。
「どうしてお前がっ! どうしてお前が持っているのよっ!」
そこに現れたのは、まどかだった。なんで? なんでまどかの魂がこんなところにあるのよ。なんで、なんでよ。あの少女が地獄になんて来る筈がないわ。
「おっ? ふっはははは! もっと、もっとだ。もっと怒れ、もっと怒れ。そして私を殺してみせろ」
そうだわ、乱してはいけない。振り上げた拳を下ろし、唇を噛み締めて耐える。




