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【FUTURE STRIDE】  作者: 花街ナズナ
33/43

【a state of confusion】

ルーク1が人間の追跡を開始する直前。


やつはギリギリまで橋のたもとに待機し、人間がホバーから脱出して橋の上へ復帰するのを待っている。


どのみち、人間が橋の上に戻らなければHFである我々は一歩たりとも橋を進むことはできないし、ここは普通に必要な待ち時間だった。


とはいえ、こちらにも利点はある。


自分の立場に置き換えて考えたなら、恐らくホバーは船体維持の限界まで使い、そこから橋の上へと復帰するのが筋道だろう。


そしてホバーの位置は今も橋の真下。

そうなると、その先の道はほぼふたつしか無い。


下段の鉄道橋の隙間を見つけ、そこにロープなりを引っ掛けて登り、橋へ侵入する方法。

しかしこの方法を取る可能性はかなり低い。


何故なら、そう都合良く侵入可能な破損個所がいくつもあるとは思えない。

奴らだって出来る限り前進して橋へと復帰したいのが当然のはず。


ホバーの船体維持が限界に達した場所に必ずしもそういった都合の良い場所がある保証は無いわけで、そこを考慮するといくらなんでもそんな行き当たりばったりな運任せをするとは考えにくい。


さらに、鉄道橋はとても人間が走る……どころか歩くにも適さない。

車道橋も荒れてはいるが、少なくとも道として機能している。


だが鉄道橋は名の通り、鉄道としてしか造られていない。


線路以外に平坦な部分は存在しないし、その線路も、人間の歩けるような代物じゃない。


表面がうっすらと湾曲しているため、鉄道の走行には適性でも人間にとっては単にバランスを崩す要因にしかならない。


となれば、残る人間の出方はひとつ。


推測するに、射出型の自動固定式ウィンチでも使うつもりだろう。


あれなら橋の欄干に打ち込めば軌道を計算して巻き上げられるワイヤーに身を委ねれば比較的容易に橋の上へ復帰できる。


さりながら、

少しばかり気にかかる点があるのは確かだな。


橋から搭へ向かっていた人間。これは今さら言うまでも無いが、どうやらホバーがその支援に駆け付けたところをみると、まずジンを失いはしたものの、人間側はまだ複数人で行動していると考えられる。


まあ、意外というほどでもない。


思えばカオが話していたな。ジンの右腕として動いていたイェンとかいう女のこと。


それが協力しているとすれば全体の頭数と動きの説明はつく。


さてと、

そうするとまたもや気になるのは橋の上への復帰に関してだ。


低い確率だが、鉄道橋に入られたなら、それはそれで問題無い。


鉄道橋に入っても、あそこでは人間は時速10でも出すのがやっとのはず。


そうでなくとも、鉄道橋から車道橋へ復帰というルートを取った場合、これもこれで有り難いとすら言える。


素直に鉄道橋を進もうと、そこから車道橋に戻ろうと、どちらにせよ人間たちは大きく時間をロスする事実は同じ。


こちらの特になる展開は有り得ても、損する展開はひとつも無いなら放置で良い。


つまり気にすべきは可能性の高い復帰手段のみ。


これもこれでふたつの動きが想定されるが、そのどちらで来られても対応はほぼ変わらない。


人間ひとりで橋に復帰してくるか。

人間ふたりで橋に復帰してくるか。


可能性だけで考えればふたり以上というパターンも無いわけではないが、これはジンが絡んだ作戦である以上、まず無いと考えて良いだろうね。


思うに、ホバーへの負担を最小限にするため、積載重量は軽ければ軽いほど良い。


しかもたかが途中で人間ひとりを拾い、それを橋の上へ再度復帰させる程度の仕事にひとり以上の人員は必要無いはずだ。


すなわち、

今回の作戦は実動している人間ふたりで決まり。


加えて今後の展開もシンプル。

車道橋に人間がひとり復帰してくるか、ふたり復帰してくるかのどちらか。


このふたつの確率だけでほぼ90%近い。


殺す人間の数がひとりかふたりかの差だけ。考慮の必要も無いな。


と、言えども希望する部分が無いわけでもない。

出来れば人間にはふたりで橋の上に着てもらいたいものだ。


こちらが破壊された駒の数には到底、及ばないが、それでもひとりよりはふたり殺せるほうが有り難い。


言わずもがな、ルーク1も同じことを考えているだろう。


だからこそに待っている。ルーク1は。


ウィンチ本体は人間も考えて設置するはずだから、これ自体を破壊するのは不可能だと考えたほうが良い。この期に及んでジンの作戦に抜かりがあるわけがないしな。


が、付け入る部分が無いわけでもない。


無論、これで殺せるというほどのものじゃないが、少なくとも有利な点なのは間違い無い。


橋への復帰時に巻き上げられるワイヤー。ここが重要。


人間は撃てないが、ワイヤーは撃てる。


軌道計算にミスなど無いはずだから、ワイヤーを狙撃したところで橋への復帰を妨げることはできないのは承知の上。


けれど、途中でワイヤーが切れればその分、着地点と着地の衝撃を多少なりともずれさせることは可能だ。


橋の上は障害物も多い。少しでも着地点がずれれば、それだけで人間に大きなダメージを与えられるかもしれない。


止まっている車にでも突っ込んでくれたら、それこそ最高なんだが。


まあそこまででなくても人間の走り出しを遅らせられるのは確実だろう。これは大きい。


計算上でも大差の無い移動時間。少しでも、ほんの少しでも人間の足を止められれば、それでルーク1の勝率を大きく引き上げられる。


最終的に破壊される結果は変わらずとも、本懐を遂げられるか遂げられないかでは天と地。


願わくば満足して散って欲しいと思うのは、マスターとして正常な思考だろう?


そんなことを思っている間だ。


乾いた発砲音が響いた。

まずは狙撃終了か。


次いで、すぐに爆発音。

ふと見れば、先ほどまで狙撃体勢でいたルーク1は消えている。


まだ銃口から硝煙を伸ばす剛雨を残して。


ついに始まったな。


本音を言えば始まって欲しくなかったレースが。


それにしても、

何か妙な感じがしたのは気のせいだったか?


何かこう……微妙に行動予測時間に遅れがあったような……。


などと、


考えているうちに答えは向こうからやってきた。


ルーク1からの通信だ。


『……こちらルーク1。マスター、自分で通信を繋いでおいて何だが時間が無いんで簡潔に俺の見たことを伝える。そして重ねて済まないが、聞いた内容の判断はあんたに任せたい……』


何やら困惑しているような……声に疑問符でも張り付けたような調子だったよ。


ただ、私も時間的な違和感を感じていたのは確かだったし、それほど考えずに話を聞くことにした。


その、感じたルーク1の行動の遅れに対する違和感が意味するところを、まさかそこまで重大だとは思いもせずにね。


「どうもお前にしては珍しい物言いだな……だが時間的余裕が無いのも了解している。話を聞くとしようか」

『あんたのセンサーでは捉えられなかったと思うが……俺は人間が橋の上へ復帰するタイミングに合わせて奴らが吊られているであろうワイヤーを狙撃しようとしてた……が、撃とうとして撃ち損じた……』

「撃ち損じた? お前が……?」

『言っておくが、俺の機能に問題があったわけじゃない。ホバーからのカウンター・ロックオンが持続していたせいで、ホバーの沈没を待っていたら先に橋へ降りられちまっただけだ』

「ああ……そうか、ホバーのカウンター・ロックオンは持続したままだったな……」

『そこで俺は切り替えて着地した人間の足止めにと、剛雨での威嚇射撃後、爆龍による移動を開始しようとした。したんだ、が……』


明らかに動揺した声で言い止し、しばし間を空けたルーク1だったが、少しすると思い切ったように……だが、やはり動揺は隠せない口調で言葉を継いだ。


『橋に着地したのは……ふたり……いや、違う……人間と……HFだったんだ……』

「……!」

『そりゃ驚くよな……俺だって驚いた。おかけで威嚇射撃しようとしていたものが、無意識にそのHFへ攻撃してた……でも、攻撃直前に気付かれてカウンター・ロックオンされたんで、狙いが外れて偶然、右足を吹っ飛ばせただけで終わっちまったが……』

「それはまた……予想外にもほどがあるな……いくらあのジンでも、HFまで隠し玉に持っていたとは……どこか敵対国の鹵獲HFか、それとも素体か……?」

『や、悪いがマスター、俺が混乱したのはそんなことじゃないんだ。そりゃあ識別信号を発さないHFなんて敵国のHFか、まだ部隊編成されていない素体のHFしかないのは俺でも分かってる。だけど、そうじゃない……そうじゃねえんだよ……』

「……どういうことだ?」


ここでまた言葉が途切れる。

困惑したよ。理解出来ずに。


何故、ルーク1がこれほど口ごもるのか。


相当な脅威と思えるものならそれも分かる。

ところがルーク1はそのHFの右足を破壊したと言っている。


だとすれば、そう脅威となり得るとは思えない。


しかも相手はもう片足。死に体だ。

戦力として計算する価値もまず無いとしか考えられない。


しかし、


予想というものは裏切られる。


いや、この場合は予想を上回られたというのが正しいかもしれないな。


ようやくルーク1が話を再開した時、

その内容を聞いて私は、不覚にも思考が停止したからね。


『確信は無い……が、限り無く確信に近い……あのHFは、識別信号こそ発しちゃあいなかったが、視認したデータとカウンター・ロックオン直前に読み取れた一部の情報を総合して考えると……』

「……?」

『あれは……クイーンだ……』


言われた途端、


私は完全に言葉を失った。

意味が分からず。何が起こっているのか分からず。


『しかもだ……その、クイーン……らしきHFを、人間は何故か放置しないで担いで走ってやがる……時速は約14キロ……もう俺には今、何が起きてるんだか訳が分からねえ……』


当たり前だよルーク1。


私だってそうだ。


というより、

もしかするとお前よりひどいかもしれない。


ほとんど思考停止だ。

意味不明。理解不能。


その繰り返しだよ。今、私の頭の中は。


そう、

意味不明。理解不能。


それだけを頭の中でリフレインしながら、お前が上げる爆龍の爆炎を眺める以外、少なくとも今の私には何もできそうにない。


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