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【FUTURE STRIDE】  作者: 花街ナズナ
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【ONCE UPON A TIME】

何がどうしてかって考えると難しいんだが……。


無理くり始まりがどこだったかを考えると、恐らくは学校の帰り道だろうかね。


さっきも話した通り、俺は今年から高校に上がってさ。悪知恵は働くけど、勉強はからきしだった俺は学区内でも中の下で有名な高校に入ったってわけだ。


そこに入った理由はたったひとつ。


当然、頭のよろしくない俺が入るにはちょうどいい程度のバカ学校だったこと。


自分で言うのもなんだが、相当にひねくれ者な俺には友だちなんてものは幼稚園、小学校、中学校と通して一切いなくてさ。


しかも趣味といえば走ること。

それもほんとにそのまんま。ただ走るだけが楽しいっていう、周りからしたら変わった奴だと思わないほうがおかしいくらいに変わったガキだったんだ。


それが中学に上がった時。一念発起っていうのかな?

今まで考えもしなかったことだけど、急に部活を始めることにしたのさ。


どこに入ったかは言わずもがな。陸上部。

そこなら俺も変われると思ったんだよ。良い方向にね。


けど、その考えが甘かったことをすぐに思い知らされた。


走り方から練習方法、何でも口出しされて、まるで思うように走らせてもらえない。


やれスタートがどうの、フォームがどうの。挙句は短距離向きか長距離向きかだと。


知ったことかと思ったよ。

俺はただ、走れればそれで良かったのに。


すぐに退部届を出したのは言わなくても察しはつくだろ?


でもそう簡単にいかねえんだよな……。


めんどくさい指導こそされたが、俺は元々から走るのは早かった。スタミナも同じ部の連中の中では群を抜いてた。

それがいけなかったんだ。


顧問や部長は、大会に出せば確実に成績を出す俺を手放したがらず、何度退部届を出しても却下されちまって、ズルズルと三年間さ。


正直、中学の三年間で俺は走るのが一度、たまらなく嫌いになったりもした。

型にはまって走るのが苦しくて、つらくて……。


だけど何より悲しかったのは、


自分が好きだったはずの(走る)ってことを、一度でも嫌いになっちまったことなんだよ。


分かるかい?

大好きなものを嫌いになる苦しさが。

大好きなものを嫌いになるつらさが。


俺には他に何も無いって思ってたものを、失うならともかく嫌いになるのがどれだけ悲しかったか、分かってもらえるかな。


まあ、もし分かってもらえなくてもそれはけっこう。構いやしない。

今となっては終わったことだしさ。


そう、終わったんだ。


部の顧問は陸上ではかなり有名な高校に推薦をしてくれたけど、俺はもう陸上は止めると決めてたから、断ったよ。


そんで今の高校に入った。


部活のせいにするつもりはないが、中学の三年間はほとんどそれだけに集中しちまってたせいで、ほんと受験はドキドキもんだったぜ。かといってこれ以上はランクを下げたくなかったってのもあったし、難しいとこではあったな。


だけど結果は合格。

合格発表の掲示板を、補欠合格のとこから先に見たのは、今でも我ながらずいぶんと卑屈になってたなあと、少し笑えちまう。


あと、当たり前だが陸上部なんかには入っちゃいない。

ただし、普通なら自転車か電車通学する距離を、毎日徒歩で通学してるがね。


家を出て細い道を二本抜けると国道に出る。

そこをしばらく進むと、川にぶち当たって道が三叉路に変わるんだ。正確には、川に橋がかかってるからそこも含めると四辻になるが、橋のほうは歩行者専用だから表現が微妙なんだな。


で、その橋を渡るってえと、もう残りは五百メートルほど道なりに行けば学校に着く。


着くんだが、


問題はこの手前にある歩行者専用の橋さ。


歩行者専用とは言っても、主に通ってるのは自転車ばかり。徒歩で渡る奴なんてそういない。


もっともな話で、この橋は全長が約一キロもある。


正確に言うと1120メートル。橋のたもとのところに、ほらすごいでしょうとばかり書かれているから嫌でも覚えちまった。


おっと、少しばかり話がそれたか?


とにかく、

重要なのはこの橋がバカみたいに長いってこと。

そしてそれを俺が大のお気に入りだったってこと。


なんたってそれが原因で今、俺はこんな妙な状況に陥ってるわけだからな。

まったく、何度思い返しても不思議な話さ。


よく覚えてるのは登校前にテレビで見た天気予報。

午前の時点で強風注意報が出てた。おかげでいつもは自転車に乗って橋を渡ってる連中が、自転車を押しながら、えっちらおっちら渡ってやがんだよ。


自転車に乗ったままじゃ、横風が吹いた途端に川へ落っこっちまうからな。

でも俺はお構いなしさ。


いつもは好敵手って感じで一緒に走ったりしてた自転車の連中も、こうなっちまうと情けねえもんだ。

トロトロ歩いてやがるから、その横をスイスイと縫うように駆け抜けて登校したよ。


しかし、この時はまだ考えてもいなかったね。

下校の時になって、あんなことになるとはさ。


今になって思ってみれば、だ。予兆は確かにあった。


登校時の強風注意報。今考えれば、あれが兆しだったといえる。


とはいえ、これはもう単なる結果論だ。

まさか思わないだろう?

下校時には強風注意報が、強風警報にランクアップするなんてさ。


そりゃ担任から注意も受けたし、学校から外に出た時もその風の強さは肌で感じたよ。

校内放送のアナウンスでも強風警報についてはしつこいくらい話してた。


だからみんなはモタモタ帰ってたってのは、もうこれは済んだことだから分かることであってその場の感覚では見過ごしちまうってのもあるんだよ。


分かった……認める。俺の不注意だ。


調子に乗ってたことも認める。実際、俺ははしゃいでたしな。

すげえ横風で、橋がたわんでグラグラ揺れてんのが面白くってさ。


え?

何をしでかしたかって?

おいおい、その言い方は無いだろう。別に何もしてねえよ。


ただ……ちょっとさ、

面白いこと考えついたと思ったんだ。


揺れに揺れてるうえ、ものすげえ横風が吹いてる橋さね。当たり前っちゃ当たり前だが、誰も通ってなかった。

俺ひとりきり。貸切状態。多少はウキウキしちまうのも分かるだろ?


それでまあ……橋の真ん中を、一気に駆け抜けてやろうって……。


考えとしては悪くないはずだよな?

風で飛ばされて橋から落ちたりしたら危ないから、橋の真ん中を走りましょうってんだから。


基本的には間違ってはいなかったはずなんだよ。

基本的には、さ。


だが残念なのは、これが基本的な……で片付けられる状況じゃ無かったことだな。


ああ、走ったよ。思い出しても気持ち良いくらい爽快に走ったよ。


左手からぶん殴るみてえな強さで吹いてくる風に抵抗しながら橋の中央、500メートル地点辺りまでは快調だった。


ところが、

まさに橋の中央を抜けて、残り半分だと思ったその時さ。


今まで多少、上下に揺れる程度だった橋がいきなりグワンと浮くみたいにしなりを利かせたと思ったら、一気にストンと落ちやがったんだよ。


つまり、たわんだ橋が一回上に向かって俺を突き上げて、次の瞬間その空中に俺を残して橋だけが下がっちまったのさ。


そうなるとどうなる?

俺は一瞬ではあるが宙に浮いた格好になるわけだ。


そこへ持ってきて?

もう予想がつくだろ?


殴りつけるみたいな横風が、足の踏ん張りが利かない俺の体を、紐が切れた凧みたいに右へ向かって吹き飛ばしやがったのさ。


いやいや、ほんと驚いたとしか言えないよ。

自分の体が気づいたら橋の上を完全に通り越して、川の上まで飛ばされてたんだから。


あとはもうどうしようも無いね。


真横へ一気に移動した視界が、今度は縦に落ちてくんだ。

水面まではほんの一瞬さ。


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