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【FUTURE STRIDE】  作者: 花街ナズナ
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【STRANGE TESTAMENT】

『これを見ているということはカケル、もう君がいくつかの疑問やそれに対する憶測が出来上がっていると考えて良いだろう。そして今現在、恐らく時間が何よりも足りない状況にあるとも察しが付く。だから簡潔に事実を話してゆこう。時系列を下ってね』


自動再生だからだろうな。

画面の中のジンはこっちの都合なんて考えず、ひとりで話し続けてる。


まあ、真面目に聞いてたけどね。

さすがに仮にも遺言を不真面目には聞けねえからさ。


『手紙にも書いたが、私は人間じゃない。HFだ。そしてその点はイェンも同じく』


そう、

手紙を見た時にいろいろと書いてあったが、その中で一番何に驚いたってこの話さ。


まさか思わねえだろ?

人間を守るためにHFと戦ってるのが同じHFだなんて。


ただ、理由はあるんだろうってことはバカな俺でも分かったけどな。


『HFは基本、17体でひとつの部隊という単位で造られる。チェスの駒とほぼ一緒だ。キングとクイーン、ルークとビショップ、ナイトが2体ずつ。それにポーンが8体と、最後にそれらすべてのHFを管轄指揮するHF、マスター。別名プレイヤーとも呼ぶが、この呼ばれ方を好むマスターHFは稀だろうね。私たちは決して遊んでいるわけではない。そこを思えば、プレイヤーという呼び名は馬鹿にされているようにすら思えるんだろう。私のマスターだったHFもその大多数の中の一体さ。彼はマスターHFとしては優秀ではあったよ。指揮管理能力だけを見れば……ね』


ほう。ということは他の部分に問題アリな奴だったってことか。


話の運びが分かりやすくて助かるよジン。


『確かに私たちはHF。人間を殺す存在だというのは否定しない。けど、それも自衛目的がほとんどだったんだ。人間は正直、私たちの脅威となるには弱すぎたし、頭脳もそれほどの者はそうそういない。危険因子となる可能性がほぼ無い相手を虐殺しても虚しいだけだ。だから私たちは出来る限り人間たちとの接触を避け、不穏な共存状態を長い間に渡って維持してきた。が、そのバランスはあることをきっかけに崩れてしまった。3年前、コン・マーという人間がブランクに現れてから……』


またその話かよ……出来ればあんまり聞きたくねえけど。


でも、こうして改めて話すってことはそのことが思った以上に何か大きな影響を人間とHF双方に生んだってことか?


『細かい話は省くが、マーはブランクの水源管理システムに明るく、それを利用して自分と同じ人間たちを苛烈に虐げ続けた。それこそ筆舌に尽くし難いほどに。この状況が原因で情緒に変調をきたしたのは私とイェン、それとマスター。他のHFと比べて自我が強かったせいもあって、こうした事象に過敏な反応をしてしまったわけさ。マスターは同じ人間同士で何故ここまでの非道がおこなわれるのかが分からず思考が混乱し、私とイェンは敵対生物として認識していた人間に同情の念を抱いた。マスターや他のHFたちとも何度か話し合いもしたが、私とイェンの意見はことごとく却下されたよ。(人間は人間というひと括りではなく、もっと個体単位で生殺与奪を慎重に決定すべきだ)という意見。まあ、今にして思えば通らなくて当然だね。普通に考えたら私とイェンのほうがおかしいんだ。今まで敵として見てきた相手を急に保護しようなんて』


ああ、分かるよジン。


いつの時代だって、どんな存在だって、必ず少数派は多数派に押し潰される。


考えてみれば民主主義も社会主義も、そこの一点に限ってみれば同じようなもんだな。


集団規律?

協調性?


知るかバカ。


変に主義だの主張だのをまとめようとするからムダに軋轢が起きるんだよ。


だから俺は群れる連中が嫌いなんだ。


人間がひとりでは生きていけないことは認めるけど、自分の考えすら自分ひとりで完結できない意志薄弱どもとは一生、分かり合える気がしないね。


『そんなこんなで、意見の衝突を起こした私とイェンは逃げ出した。もうこのままでは先が無いと思ったのさ。そして人間たちと接触しようと試みた。だが……』


言い止して、ジンは少し苦い顔をしてからすぐまた話を再開した。


何か思うところがあったのは俺の目にも明らかだったよ。


『今思い出しても、あの接触が正しかったのかどうか自信が持てない……マーのあまりの暴虐を目の当たりにして、私はさすがに捨て置けないと思い、別の水源を人間たちに提供することにした。私もブランクの設備情報はある程度、知っていたからね。それで争いも治まってくれるとお気楽に考えて。ところが結果は最悪ならぬ最低だった。人間たちは今までの恨みのすべてをマーにぶつけ始めた。それは私ですら正視に堪えない光景だったよ。思い返すのも苦痛なほどのまさしく地獄の4日間さ。確かにマーには同情の余地は無い。それだけのことをされても文句を言えないことを奴はしてきた。しかし私が……そしてマスターにもショックだったのはその人間たちが見せた底の知れない凶悪さだ。これを契機に、マスターの人間への憎悪感情は臨界点を超えた。人間は存在そのものが邪悪だと。生かしておいてはまたいずれさらなる非道を繰り返すだけの害獣だと。思えば、私のこの行動が今のマスターを生んだともいえる。つくづく因果だと思うよ……』


なるほどね……でもそれは仕方ないだろジン。


人間のほうは救い難い生き物だってのはある意味で賛成だし、マスターとかってのが極端な考えに走ったのも単なる行きがかりさね。


そうなる奴ってのは、ジンが起こしたと思ってるきっかけが無くても、いつか別のきっかけでそうなる奴だったんだ。


素質のある奴は何がどうなろうといつかは同じ結果に行きつく。


そんなもんだよ。自分を責めなさんな。


『そんな時さ。偶然にあの映画館を見つけたのは。ジャミングが強すぎて近くまで来なければ分からなかったが、何か奇妙な信号が内部から発せられていた。この頃にはもう私は人間たちからボスと呼ばれていたしね。その権限を使って映画館を占有し、内部をくまなく調査した。そうしたら出るわ出るわ。まさに驚きの宝庫だったよ。中でも特に厳重なロックをされていた地下の一室に入った時、驚きは納得に変わった。ここはキヌミチ博士の息子……つまり本物のジンが隠れ家として使っていた場所だったんだ。彼の残してくれていたもの、はどれもこれも魅力的な代物ばかりだった。私も知らなかったブランクのいくつかの隠された施設や機能の情報、アンサーティン・ジャマーや今、君が乗っているはずの試作型ホバー、そしてHF専用の小型反響式識別信号相殺装置。これはひとつしか無かったのでイェンに渡した。私は映画館に引きこもり。これでマスターたちは私たちの居場所どころか存在するかすら知れなくなった。これによって私は自分の存在を隠しつつ、マスターと戦えるようになったわけさ。といって、別に全面戦争なんてことじゃない。マスターからの攻撃に対し、人間の受ける被害を最小限に止める程度の抵抗。何せ私にはもっと重大な役割が出来てしまったんでね』


重大な役割ですか。


ま、とうに想像がついてるけど拝聴させていただきましょう。


『部屋を調べて分かったことだが、どうも本物のジンはマーの一件が起きる少し前、マスターより先に……だが静かな形で人間に絶望し、ブランクを見捨てたらしい。自殺を匂わすものも無いし、当然ながら死体も無い。だから生死不明でしかないが、とにかく本物のジンは姿を消した。私に……正確にはこの部屋に入ることが出来たものにピース・ピラーに関するあらゆる情報を残して』


へえ、本物のジンは行方知れずかい。


けど会ったことは無いが、ジンらしいっちゃあジンらしい感じの消え方だな。


『実を言うと、今回のピース・ピラーに関する作戦は何から何まで事前に本物のジンが用意していたプランを丸々、私が代行しているに過ぎない。カケルがキヌミチ博士とまったく同じDNAパターンと網膜パターンを持った人間であること。そんな君がこの時代にタイムスリップしてくること。カオがマスターたちと通じていること。搭に到達するためのあらゆる作戦行動の詳細な記述。マスターのところにいた時も私はただ命令に従うだけの駒でしかなかったが、ここでも存在しない本物のジンの駒として動いていたわけだよ。ただし、自分の意志で従っている分、こちらのほうが私にとって望ましくあったがね』


そりゃそうだろね。

部下にだって上司を選ぶ権利はある。


同じように命令されて動くにしても、嫌いな上司より好きな上司の下で動くほうが楽しいに決まってるわな。


にしても、


本物のジンってのはほんとに人間か?


HFでも舌を巻くような作戦をそんな事前に予測して立てていたなんて、どんだけバケモノじみてんだ?


『さてと……これで私が言い残すことはほぼ終了だ。実際のところ、何故か本物のジンはピース・ピラーに何があり、何が起こせるのかといった具体的な情報を残していない。単に搭へ迎えと、そう指示が残されているだけだ。だからその先に何があるかは私には分からない。こんな不明瞭な目的のためにカケル、君を巻き込んだのは心苦しいが、どうか私の最期のわがままを聞いてほしい。本物のジンが目指せといった先に何が待っているのか、その目で見極めてきてほしい。何の確証も無く、待つものが希望かどうかも分からず、そんなもののために命を賭けることがどれほど精神的な負担となるかは想像に難くないが、それでも頼む。HFであることを知りながら、私を信じてくれた君に頼む。私もまた、人間でありながら信じるに足ると思えた君に、甘えさせてくれ……』


おいおい……やめろよジン。尻がこそばゆくなるだろが。


とはいえ、


あんたが頼まなくても、ちゃんとやり遂げてやるから心配すんなよ。


どうせもう乗りかかった船……ならぬ乗りかかったホバー・クラフトってね。


人間とHFで不毛な殺し合い。

それを止められる可能性があるなら喜んで頑張りますとも。


普通の人間なら一生、関わることもできない話だからな。

HFも含め、人類存亡の危機を回避できるかできないかなんてさ。


うまくすりゃ、俺ってば救世主だぜ?

こんなオイシイ配役、誰が捨てるもんかっての。


喜んで命懸け、続行させていただきますよ。

ええ、喜んでね。


ん?


おっと、まだ少し続くのか?


『ああ、それと言い忘れたが、ブランクの大掃除は私のほうで済ませておくから後の心配は無用だよ。この時のためにカオを泳がせてる。本物のジンの予測が当たっていれば、カオはマスターの口車に乗せられ、他の粗暴な人間たちを連れて私を襲撃するらしい。その時は私と一緒にそのゴミどもも綺麗にお掃除する予定だ。あとに残るのはまともな人間、もしくは弱い人間だけだ。安心して頑張ってきてくれ。それでは……』


そこで映像と音声は切れた。


はあ……つまるとこ、最期までジンもHFではあったってことかな。


それでも別に、俺は特には何も感じないけどさ。


人間だろうとHFだろうと、根本的には二種類しかいない。


良いやつか、悪いやつ。


悪いやつがどれだけ死のうが俺の知ったことじゃねえや。


俺は神様じゃねえからな。


だけど、


とにかくジン、長い間お疲れさん。ゆっくり休んでてくれや。


今度は生きてるやつが仕事をする番だからよ。

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