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【FUTURE STRIDE】  作者: 花街ナズナ
15/43

【change the viewpoint】

まあ、前々から人間たちが何か企んでるだろうことは予測してはいたが、まさかここまで大胆かつ荒唐無稽な作戦を立てていようとは、驚くのを通り越して呆れてしまったよ。


もちろん、侮蔑を含んだ意味でだがね。


その気持ちがあまりに大きかったんだろう。自然と口から漏れてしまったほどさ。


「ふうん……まさか人間たちがそんなことを企んでたとはね。今まで散々チャレンジして、すべて失敗に終わっていたからもうその手は無いと思っていたが、タイムトラベラーか……そこまでは正直、想定の範囲に無かったな。かといって、それでも実現可能な作戦だとは思えないのに変わりはないが……」


それが話を聞いた私の率直な感想。

ただ、少しばかり言い換えねばならないかもしれない。


(人間たち)ではなく、(あの人間)とね。


「しかし、今回の作戦は他の人間たちの独断じゃない。腐ってもブランクのボスが長く構想してようやく始めようという作戦だ。これまでの薄っぺらい行動と一緒にして考えると痛い目を見る危険性もある。どのみち手は打つが、各自、私の指示があるまで軽率な行動は控えるように。人間とは違って私たちは替えが利かないんだ。戦力差が如何に大きかろうと、油断をすれば足元をすくわれる。その点をよくよく考慮し、各自それぞれ己が身を厭えてくれ」


言って見回すと、どうやら全員納得したようで、皆うなずいている。


まったく……指揮系統を任されて長いが、いつまで経ってもこの面倒臭さは慣れないな。


もし私が人間だとしたら、肩が凝ったり、胃に穴が空いたりで大変だったろうと容易に想像がつくよ。


え?

私が誰かって?


そうだな。そこを話さないと君も何が何やら分からないだろう。まあ別に隠すことでもないから名乗っておくとしようか。


私は300式歩兵型自立戦闘機動機構70系統。


長いし堅苦しいから、君たちにはHFと名乗るべきかな?


といって、この呼び方だとそれはそれで紛らわしくなる。それは300式歩兵型自立戦闘機動機構70系統という呼び方でも同じだがね。


我々HFは個体によって認識が違う。人間で例えるなら個性といったところか。


だから我々は各自を個体として認識するよう、別々の名をつけて呼び合っている。その点は人間とよく似ているよ。


「自重しろってことは分かったよマスター。だが具体的に俺たちは当座、どうしてればいいってことなんだ?」


おっと、私の代わりにルーク1が言ってしまったな。


そう、私の名はマスター。


とはいっても、単にそう呼ばれているだけだが。


いや、そんなことを言ったら人間たちも同じか。彼らだって気がついたら名をつけられている点では同じ。望んでついた名じゃないのも同じ。

そう呼ばれるから、それが自分の名なのだと思っているだけだ。


とはいえ、なら自分で自分の名をつけたいかといえば、別に思うわけでもないがね。


さて、話を戻そうか。


それと、ついでにルーク1についても話しておこう。


ルーク1は私の指揮下ではビショップ2とともに、偵察を主な任務にしている。


ルーク1は人間の容姿で表現するなら、短髪、長身で細身の男を思い浮かべてもらえると分かりやすいだろう。


片やビショップ2は長髪。それ以外の特徴はルーク1と同じ。


邪魔だろうから切ってしまえと再三、言ってきたんだが、「そうするとルーク1と見分けがつかなくなるから」と妙なことを言っていまだに切ろうとしない。


互いに発信している個体識別コードで分かり合っているのだから見た目なぞはどうでもいいんだが、それでもビショップ2にとっては大切なアイデンティティらしい。


どうも思考が人間寄りな嫌いがあって困るが、行動に支障が無いならと、一応は目をつむっている。


いつか何かでしくじったら、必ず切らせてやろうと思ってるが……。


さておき、

どちらも機動力とセンサー周りが強力なので、偵察役に重宝な連中だ。


と言っても、二十キロ制限のせいでせっかくの機動力も宝の持ち腐れではある。


しかし抜け道が無いわけではないから、気にもしていないがね。


「で、どうなんだい。私たちは何をして待機していればいい?」


おやおや、今度はビショップ2だ。


分かりましたよ。ちゃんと話すとしましょう。まったく、これだからマスターなんてなりたくは無かったんだよ。

面倒ばかりで疲れる役回りさ。


「具体的には橋の周辺を常に見張っていてくれ。ただし手出しは私の別命があるまでは絶対に厳禁。何せ、数だけならこちらはもう私を含めても7体しかいない。下手を打って罠にかかるのは避けたい。いくらなんでもこれ以上、数を減らしたらそう楽観もしていられないからね」

「……確かに。人間たちはこちらの数を知らないが、もしこれだけ数を減らしていると知ったなら、命懸けの攻勢をかけてこないとも限らない。奴らの武器といったら手製の原始的な爆弾くらいだが、数に任せて追い詰められれば、あるいは……ということも考えられる。短慮で動いて破壊される危険性を高めるのは得策ではない、か……」

「物分かりが良くて有り難いよビショップ2。物事には常に偶然とか運というものが絡む。そうした不確定な要素でさらに数を減らすのは愚の骨頂。しかもあのボスが考えた作戦となると始めからきな臭い。思えばこの部隊の17体中、破壊されたのは8体。そのうちボスが絡んでいた件で破壊されたのが6体。あいつが関わっている時点で警戒する必要があるのさ。あいつは計算ずくでその6体を破壊してる。さすがにボスと呼ばれているだけはあるんだよ。こういう時、人間なら『敵ながらあっぱれ』とでも言うのかな?」


自嘲気味に言っては見たものの、やはり笑えないな。


人間は自分たちが追い詰められている気分なんだろうが、こちらだって余裕なんて無い。


こちらに残ってる手駒はもうたったの7体……じゃなく6体。


いけないね、私を数に入れては。

私の仕事は作戦の立案と指揮だ。


役割分担を間違えると、予想もしない失敗をする。こうしたことは徹底しないと。


「そこまでは分かってるよ。俺たちだって自分たちの役割ぐらいは理解してる。ただ、奴らに動きがあった時にはどうしたらいいかも言っておいてもらわないとまずいだろ。先手は奴らに取らせてやるとして、それでもあんまり悠長にしてると何をやらかすか分からねえ。それともまさかほんとに奴らが動き出してから俺たちに報告させて……なんて後手後手の対応をする気なのか?」


しつこいねルーク1……お前も。

そんなことは百も承知してる。私だって自分の役割は嫌ってほど分かってるさ。


全体を把握してるのは私だけでいいんだよ。


無用に全員がすべてを知っていると、場合によっては独断先行する怖さがある。それを憂慮してるってことくらい、分からないもんかね……。


「言いたいことは分かるし、聞きたい気持ちも理解するよルーク1。しかし作戦上必要な情報は各個に最低限しか与えないと私は決めている。思い出してみろ。私が様子を見ろとあれほど言っておいたのに勝手な判断で搭へ人間を追い込んだはいいが、その場で自殺された時のあの惨状を。一度に3体だ。3体も迎撃装置に破壊された。人間ひとりを殺すのにだぞ。私はもうあんな馬鹿げた失敗を繰り返す気は無い。だからお前たちに今、与える命令はここまでだ。他の駒にはまた個別に命令を伝えておく。お前は黙って私の命令を忠実に実行していてくれればそれでいい。もしこれだけ言ってもまだ私の命令に不服があるなら先に言ってくれ。お前を外して他の駒を代わりに宛がう必要があるからな」


強い口調でこう言うと、ようやくルーク1も納得したらしい。

というより、無理やり飲み込んだ感じか。


押し黙って不機嫌そうに、了解したことを手で合図しただけだったから、よほど不満だったんだろう。


にしても、


これだから我の強いHFは扱いが難しくて困るんだ。


血の気が多いのは兵士として大いに結構だが、それも時と場合によりけり……と、

また何だか変な感じだ。


血の流れていないHFを掴まえて血の気が多いとはこれ如何に。


これだから人を基準にして作られた言葉は使いづらい。

違和感に混乱しないで済む日が早く来ることを願おう。


「とにかく、そういうことだからお前たちはお前たちの役目を果たすことだけを考えるようにしろ。では、次はナイト2とポーン6を呼んでくれ。言っておくが、くれぐれもお前たちに話した内容は他の駒には話さないように。それと、ポーン3とポーン7はどこまで機能を回復できた?」

「ポーン3は右腕部が欠損しただけで、他の機能はほぼ無事。だがポーン7は厳しいな。外面の損傷は軽微だが、センサー周りのやられ方が相当ひどい。目だけはどうにか直せたが、これだと視認して動くのがやっとだ。二十キロ制限どころか十キロも出せるかどうか……しかも射撃精度がガタ落ちしてる。100メートル先の目標でも、ろくに当てられなくなってるから、もうパーツ取りとして使ったほうがいいんじゃ……」


うむ、意見としてはもっともだねビショップ2。


ではあるが、どんな駒にも使い道というのはあるものなんだよ。


「そうか……ならポーン7は切り札に使えるな」

「……え?」

「要は見方によって状況は変わるってことさ。良くも悪くも見方によって変わる。さ、お前に話すことはここまで。とりあえずポーン3とポーン7の扱いは保留だが、ポーン7は大事にしておけ。それ以上の修理はもし可能でもしなくていい。現状維持して置いておいてくれ」

「……分かった。そういうことを言う時のあんたは必ず何か考えてるからな。言われた通りにしておこう」


良い子だねビショップ2。

ルーク1もお前ぐらい物分かりが良いと私ももっと楽が出来るんだが、それは贅沢か。何せ、なりたくてなったんじゃないが、私がマスターであることに変わりは無い。


務めは果たしますとも、ええ。

立場をわきまえて頑張りますよ。出来る範囲でね。


とりあえず対策はいくつか立てた。


これが単純な罠である場合の策。

本気で搭に侵入するつもりであった場合の策。

さらにそれが失敗した時の人間たちが取るであろう策への対策。


一応この三段構えぐらいで問題無いとは思うが、心配の種はひとつでも多く減らしておいたほうがいいな。


うん、どうせだからこちらも後手ばかりでなく、先手も打っておくかね。


「よし、ちょっと思うところがあるからナイト2とポーン6は後にしよう。先にあの人間を呼んできてくれビショップ2」

「な……マスター、今は人間たちの動きに対する作戦を練ってる最中だろう。一体、人間なんかに何の用が……」

「用があるから呼ぶのさ。それと、人間だというだけでそう毛嫌いするな。少なくともあの人間はこちらの役に立つ人間だ。敵の敵は味方。有効利用できるなら何だって使う。戦いっていうのはそうしたものだろう?」

「……」

「ほら、いいから早く呼んでくれ」

「……了解……」


言って、出入り口のドアから出てゆくビショップ2の動きはひどく乱雑だった。


お前でも不満な時には態度に出るんだな。でもまあそれもいいさ。


本来は敵である存在に対して好意的になるほうが危険だ。それは先刻承知してる。


私を除いて16体いた部隊が今は残り6体。人間たちに破壊されたのは6体……。


ほんと……自分の理解出来る範疇を超えたことというのは何とも不愉快だ。


かといって冷静さを欠いたら私の負け。

私はマスターなんだから。

何事に対しても冷静に対処しないとね。


思ってると、一旦退室したビショップ2が人間を連れて戻ってきた。ドアの開け方が乱暴なところからして、よほど気分が悪いんだろうな。


「……マスター、連れてきたぞ」

「ああ、手間をかけさせたな。ではルーク1と一緒に廊下で待っててくれ。私が人間との話を終えて人間を退室させたら、改めてナイト2とポーン6に入室するよう指示を頼む」


言い終えたところで、ルーク1とビショップ2は人間を置いて部屋を出た。

やはり乱暴にドアを閉めて。


こんな時、人間なら溜め息でも吐くんだろうが、さすがにそこまで人間を模倣する気にはなれない。


単に面倒だということもあるし、楽しくないからというのもある。


人間に近づけて造られたとはいえ、負の感情まで真似てしまったら身を滅ぼす元だ。


得しない部分までは模倣すべきじゃない。先々を考えるなら、ね。


さあてと……じゃ、さっさと済ませるか。

私だって人間と関わるのは決して愉快じゃないからな。早めに終わらせるとしよう。


「悪いね、わざわざ呼び出して。いつも情報を流してくれてるのには感謝してるが、少し今回は別のことでも動いてもらいたくて、お願いのために呼んだんだよ」

「……う、動けって……俺に、何をしろって……?」


分かりやすく怯えてるね……無理はないが。


何せ自分たちを殺しまくってきたHFの……自分で言うのも何だが親玉に始めて会ったわけだからな。普通は怖がるか。


でも別に殺しやしないよ。

少なくとも今はね。


「ま、そう固くならないで話を聞いてくれ。君にとっても決して悪い話じゃない。それどころか大きなチャンスだと思うよ。邪魔者を廃し、君が上に立つ手伝いをしたい。そのために君自身にもちょっとばかり働いてもらいたいのさ」

「俺を……上に?」


ほお、体は震えてても目は期待に輝くか……。


これだから人間は分からない。いや、分かりたくも無いから構わないが、それにしても不思議な反応をするもんだ。


だが、こちらとしては好都合な性質に変わりない。利用できる以上はとことん利用させてもらうとしよう。


「そうだ。君をブランクのボスにだってしてやれる。だから是非、協力してもらいたい。こんないい話は恐らくもう無いと思うよ……ねえ、カオ?」


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