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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

クエは終わった。しかしギルドには帰らない

作者: 藤桐 稲花

 

「はてさて今日のクエストはっと…」


 今日もリアルでは暇を持て余していた彼―ここでの名前はノワールグラシエ―はVRゲームではよくあるギルドの掲示板に貼られた依頼書を眺めていた。

「高位ドラゴンのはないな。仕方ないから、これにするか」



 ノワールがクエストを受注してギルド入口に戻ってくると、3人の女性が待っていた。

「ワルー、今日の決まった?」

「ワル言うな。ま、期待はできないが決まった」

 それを聞いて、ワルの運が悪いのはいつもだからねと言って笑っているのはヴァンフィオーレ。

 その横で、

「じゃあクエはヴァンとベルに任せて、ワールは私とゆっくりしよう?ね?」

 と意味ありげな視線をノワールに向けているのはシュテルンシュトゥルム。

さらにその横、

「テルンだけは…ずるい」

 と呟いたのはネーベルナハト。この4人がパーティーメンバーである。


 このパーティー、ゲームきってのハーレムと揶揄されており、実際そうである。

 ごつい脳筋だけの暑苦しいパーティーがある一方で、リアル友人とは絶対にプレイしないという意思を貫き運よくこのパーティーに入ったノワールは、VRでは珍しいストーリーモード(このゲームではストーリーモードを1周してからクエストモードが遊べる)を1周するうちに、意図したのかそうでないのか全員を落としてしまったのだ。


 というわけで少し寄り道して、その活躍を見ていた同時期登録者の話を聞いてみよう。


 その1:努力家の騎士Aさん

「あいつは、あんなパーティーに入れた運、性格がイケメンに生まれついた運、それと、認めたくはないが戦うための努力を兼ね備えた男だった。大体1周目はいつも同じ町にいたからな、よく知ってる。ハーレムでさえなければいい奴だったよ、あいつは」


 その2:リアル格闘家の拳闘士Bさん

「いつか爆発してくれと心の底から願ってるよ。まあ奴自身はこんな状況を望んじゃいないんだろうがな。男勝りのバトルジャンキーヴァンフィオーレに、殺し愛のシュテルンシュトゥルム、根暗魔導師のネーベルナハト。まったく、全員落としてどうして死なないのか不思議でならん」


 その3:厨弐病のおかげで天才魔術師のCさん

「初めて会ったときは『なん…だと…?』って思ったね。あいつは只者じゃなかった。というか色々と可笑しい。あんなキャラの濃いハーレムを束ねあげて有名パーティーの一角に上り詰めるなんて常人にはできゃしないさ」


 彼らの話し方はどこか伝説を語るような風であった。実際にこのパーティーは末永く伝説として語り継がれるのだろう。



 そろそろ全員の装備の準備ができたようだ。大抵のパーティーはどのクエストでも変えるのは武器くらいだが、このパーティーはクエストの難易度ごとに使う装備を決めている。

 ちなみにギルド内で着ているのはデザイン重視で、基本的にクエストには着ていかない。あくまでVRだから汚れてもクエスト後には元通りにできるのだが、そこは気分というものだ。

「ワルもその恰好、ずいぶんなじんだねー。ま、自分の番来るたびに使ってれば当然か」

「うるせえよ。ほっとけ」

「ヴァンは見る目無いのね。ワールは何着てても最高なのに」

「……(どっちに同意しよう…)」


 ノワールの装備は軽めの鎧で左腕にそこそこ頑丈な盾、主武装(メインウェポン)は両腰のクロスボウ(さすがはファンタジーだけあって3連装)と、背中にはごく最近追加された武器の大型マスケット銃(無論こちらは連射式)を2挺背負っている。妙にデザインが綺麗なのでネタ武器かと思ったら結構強かったのだ。

 他には、マジックアイテムなのか右手の中指に指輪が嵌っている。


「しかし、済まねえな。俺の番の度にわざわざ別の引っ張り出させてさ」

「別に私は軽くなるだけだから構わないけどね」

「私はワールのためなら初期装備でドラゴンでも倒して見せるわ」

「わたしはあまり変わらないから気にならない」


 ヴァンは基本的に軽装で、盾代わりの頑丈な籠手と、背には身長とほぼ同じ長さの大剣。本気の装備だとさらに大きい剣を背負っている。実にわかりやすい。


 シュテルンはというと、合金製のチョッキは着ているが手足には何もつけていない。武器は双剣で、本気になると何故かネタ武器の鉈を2本もって戦う。この鉈、ネタ武器でありながらシュテルンによって強化が重ねられており、そして出来上がった究極の鉈は全双剣中でも最高級の破壊力を誇る。


 ネーベルは普段とどこが変わっているのかわからない黒い魔導服と杖であるが、基本的に杖は気分で持っているだけらしく魔法には影響しない。ちなみにクエスト中はフードを常に被っていて表情が見えない。パーティー外では、フードの中に補助アクセサリーを大量につけているという噂がまことしやかに囁かれている。

「そんなことは…ない」

 おっとそれは失礼。


「さて、行くか」

 そんなこんなで4人はクエストの場所に向かって歩き始めた。



 ◇



 道中。

「そういえば今日の相手って狼さんだよね?」

「ああ。どうした?」

「いや、最近さー。面白そうな噂聞いたんだよね」

「それ私も知ってるよ。バグみたいな人狼の話でしょ?」

「…わたしも聞いた」

「なんだそれ?」


 詳しく聞くと、狼系モンスターの高位クエストを受注すると、たまにバグのように強い人狼タイプのモンスターに遭遇する場合があるらしい。

 以前は無かった現象で、本物のバグか運営の悪意かははっきりしていない。

 ただ運営側では、この人狼を撃破するとクエスト報酬を3倍にするとしている。

 さらに人狼戦で倒されても本来のクエストを達成していれば報酬が入ることも考えると、運営側で駆逐できていないバグの可能性が高い。


「へえ…」

「いると思う?」

「いるかないるかな?」

「……(なんで2人ともすごく会いたそうなの?)」

「ま、会えたら僥倖だろうな」

「!(ワールまで!)」


 安全に早く帰りたいネーベルに味方はいなかった。なんだかんだといわれているがネーベルがこのパーティー唯一の良心である。それでもここまでフラグが固まってしまえばもう諦めるしかない。

「…はぁ(帰りたい…。知らない相手とか怖いし)」


 彼女がフードをかぶっている理由の一端が分かった気がする。



 ◇



 しばらくして、順調に目標地点に到達した4人は各自配置についた。


 今回のミッションは狼系の…名前は忘れたが高位な奴の縄張りを殲滅することだ。

 警戒心が強い彼らの住処にたどり着くために全員がネーベルの隠密魔術と個々のハイディングスキルで対応している。今回の相手は30頭前後だ。


『こちらノワール。全員準備は?』

 ノワールから全員に念話が届く。これもネーベル。

『こちらヴァン。配置OK』

『こちらテルン。いつでもいいよ』

『こちらベル。準備完了』


 ちなみに配置は時計回りにノワール、シュテルン、ネーベル、ヴァンの順で住処を包囲するといういたって単純なもの。


「了解。んじゃ、とりあえず狙い撃つぜ!」

 開戦の狼煙を上げるのはノワールの役目。狙い澄まされた連装クロスボウから放たれた3発の矢が、族長らしい大型のモンスターもとい狼の頭部に命中し1瞬で死に至らしめる。


「はぁぁぁぁあああっ!!」

「あっはははははは!!」

 同時にヴァンとシュテルンが飛び出し、流れるように敵を切り刻んでいく。

 ヴァンは真剣な表情で、眼には闘志が燃える。

 シュテルンは愉悦に歪んだ表情、眼は狂気に彩られている。


 ここで何頭かが逃げ出そうとしたが、

「…逃がさない」

 ネーベルの放った氷の槍に貫かれそのすべてが絶命した。


「終了っと」

「うん、まずまずの出来だったわ」

「もう終わり?…つまんないの」

「今日も無事でよかった」


 ほとんどのプレイヤーが「馬鹿な…早すぎる…」と言わざるを得ないような早さで今日のクエストが終わった。



 しかし、

「ねーねー私今日は18頭だったよー。ほめてほめてー」

「おー、よくやったな、ヴァン」

 このやり取りが全ての元凶。しかもノワールがヴァンの頭を撫でたのがさらに状況を悪化させた。

「…ワール…ヴァンにはいい子いい子して、私は除け者…?」

「(ヤバい!)そんなわけないだろ!テルンは今日何頭だったんだ?」

「…10」

「……(ど、どう返していいか分からん!)」

「あらテルン、もしかして嫉妬?見苦しいからやめてくれる?」

「うおーい!火に油を注ぐような真似をするなぁ!」

 ブッツン。こうしてシュテルンの何かが切れた。

「……アンタさぁ、いつもいつも私とワールの邪魔してうざいのよ。…消えてくれるかしらぁ?!」

「嫉妬狂いが…、そっちこそ消えなさい!」


 始まってしまった。



 1分経過。やっぱり2人とも本気装備を持ってきていて、現在絶賛殺し合い中である。

「………(止めなくていいの?)」

「ベル、俺に死ねって?」

「……だったら…一緒に、行こ?」

 ネーベルはそれとなく後ろを示しながら言った。

「そうだな。2人なら何とか止められるかもしれねえな」

 しかしそれをノワールは見ていなかった。

「え?…いやその、そういう意味じゃなくて…」


 発言の真意なんて伝わらないものだ。相手の耳に入った時点でそれは相手の思うように翻訳され、曲がる。

 今回のように180度曲がることも時によってはある。ネーベルは帰りたかっただけなのに。



 しかしそれを伝える前にノワールが動いてしまった。

 右手の指輪が輝き、次の瞬間には両手に棒が現れる。そして、2人の攻撃を間に入って止めた。


 実はノワールの本業は棒術師で、小さく収納できるこの武器をクエストにはいつも持ってくる。

 普通はデフォルト能力で使うしかないこういった武器(定型を持たないため鍛冶では鍛えられない)も、特殊な方法で強化すれば究極の打撃武器にすら変わる。今ノワールが操っているのがそれだ。


「いい加減にしろ。早く帰るぞ」

「何?戦闘の邪魔なんて、いくらワルでも許さないわよ」

「ワールはこんな女を庇うの?私のことはどうでもいいの?」

 当然の悪循環。

「おい待て、話を…」

「「誰が聞くかぁぁぁ!!!」」

「ちぃっ!」


 O☆HA☆NA☆SHIが始まった。本日2度目の“始まってしまった”。



「さあ、もっと本気だしなよ!」

「愛は正面から受け止めるものでしょ?」

「お前らいい加減に…ッ!!」

 さらに1分経過。状況はさらに混沌。もはや立て直す術はない。それでも

「まだ殺し愛を受け入れる気は…ない!!」


 ノワールは長距離バックステップで距離を取りながら背の銃を両方抜き放った。

「シュート・スタッカート!!」

 両手で同時に魔法で速度を上げつつ放たれた弾丸だったが、どちらもあっさりと弾かれた。

 2人に速さでは勝てない。少なくとも銃弾では。


「まだだぁ!シュート・クレッシェンド!」

 今度は連射するが、単調な連射ではなく、少しずつ、相手が気付かない程度に少しずつ密度を上げていく。

 ちなみに明らかに装弾数が間違っているがそこはファンタジー世界、魔法での装填など簡単だ。


 ズガガガガガン!!


「なかなかいいわね。でも…」

「それがワールの愛?でも…」

「?!」

 ノワールの背に走った氷のような冷感は、次の瞬間具体的な意味を持って現れた。

「「まだまだ足りないわ!」」



(きょうの2人、飢えてないか?)

 無限に増えて見える2人の剣閃を得意の棒術でいなしながらノワールはそう考えていた。

 よく考えると、最近ずっと平和でみんな退屈していたのだ。自身もそうだった。

(…自業自得に最近の退屈が上乗せか…。)

 少々理不尽な気分になり、鎧がそろそろ斬り飛ばされようかというとき、何かは分からないが黒い気配が向き合う2人の背後から突然迫ってきた。

「おい後r…」


 しかし、


「「邪魔すんなって言ってるでしょ?!」

 息の合った2人の振り向きざまの一撃で沈んだ。ノワールはそれが済んでから、自分が休むチャンスを失ったことに気づき

「冗談じゃない…」

 と呟いた。



 さらに1分経過。さすがにノワールも我慢の限界が近づいていたが、それより早かったのは、

「ワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせいワールのせい……」


(!?)


「光の理、闇の理、その全てを以て裁きを下さん…。“天誅『ヘヴンズシャドウ』”」


 ドォォン!!


 ネーベルの殲滅魔術だった。天上から降り注ぐ光と影の槍を何とか避けた3人は、ネーベルを加えて4人で向かい合う。

「久しぶりに本気が出せるわ。楽しそう」

「ワール、今度こそ受けてね、私の愛」

「どうせやるなら、やっぱ本気か」

「圧殺する…完膚なきまでに…」


 え?仕切り直しですか?



 彼らの本気とは、文字通り必殺。当たれば一撃死、掠っただけでもかなり持って行かれるような技ばかりになる。そして、それを使うための起動言語をそれぞれが紡ぐ。


「世界の扉よ開け、時空を切り裂く刃をこの手に宿せ。“聖剣『天地開闢』”」

「激情よ廻れ、我が血と肉を滾らせ、力を増せ。“解放『純狂の使徒』”」

「本能よ昂れ、我が血肉を食らい、力を生め。“顕現『狂乱舞踏』”」

「世のあらゆる理を超えし、時空に見えざる神の力を喚ばん。“招来『壊滅無比』”」


 ヴァンの剣は赤黒く輝き、シュテルンの眼の狂気はさらに鮮烈になり、ノワールが獰猛な笑みを浮かべ、ネーベルの足元に強力な魔法陣が出現する。


「「「「これで……終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」


 最後の一撃が放たれた。



 結果。今回のクエスト区画の1/4が消し飛んだ。で、出来上がった巨大なクレーターの中央に、4人とも平然と立っていて


「あーすっきりした」

「今日も良かったよ、ワール。あはっ」

「…気分が軽くなった」

「ふぅ。ストレス全部抜けた(笑)」


 ……全く訳が分からない。



 その後、ギルドに戻ると、なぜか報酬が3倍になっていた。そのせいでその日の某ネット掲示板は荒れに荒れ、

「くそ!あのハーレム今すぐ吹き飛べ!」

「なんてことしてくれてんだあのks」

「奴は俺が倒す予定だったのに!」

 等々、罵倒コメが大量に吐き出された。



 今日も現実世界は平和である。

最初も書きましたが完全にノリと勢いの産物です。なんかチートなハーレムパーティーでVRとかいいよなぁと妄想した結果です。そんな感じなので個人的には目的(とりあえずハーレムなんだけど殺し愛)は達成されたかなと思ってます。

あと、書き方が分からずなんか中途半端なヤンデレ風味が出来上がったり、魔法使いの活躍があまりなかったりしたのは完全に作者の文才不足です。

忙しい身ですが、これからも精進します。以後もっと良いものが書けますように。

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