本は大切に扱いましょう。
「それで?」
フランは、目の前にいる父に言った。
ここは、いつもの父の執務室である。
「いや、だから・・・。
お前に縁談の申し込みが「断ってください。」・・・無理だ。」
「どうしてです?」
嫌そうな顔で聞き返すと、ぼそぼそと返してきた。
「それが・・・第1王女のリフィエ様からの縁談なのだ・・・。
王族からの縁談を蔑ろにできないだろう?」
仕方ないんだ、とばかりにフランを見返すと、いつもの答えが返ってきた。
「王族からなら尚更です。
いろいろ面倒そうだから、断固拒否します。」
「いろいろ面倒そうって・・・フラン・・・お前・・・一生独身でもいいのか?
老後の一人暮らしは寂しいぞ?
確かに、色々と面倒なことがあるかもしれん。
だが、それを夫婦で乗り越えることこそが、いいのではないか?
私は、好きな人と人生の半分以上を過ごせて、とても嬉しかったぞ。
お前も、好きな人の傍にずっと居られるのが幸せではないか?」
「俺は・・・。」
「だからこれがいい機会だと思って「嫌です。」そうだろう・・・・・え?」
ココぞとばかりに押していたが、いきなりの否定に反応が遅れた。
「嫌です。」
フランは二度言った。
やっぱり、相当嫌らしい。
「何故だ?
面倒だからとお前はいつも断ってはいるが、人生とは面倒なことばかりだろう。
今までにもたくさんの面倒ごとがあったはずだ。
ならば今更、少しの面倒ごとなど、どぉって事ないだろう?」
父の言葉に、フランは言い返した。
「父様。父様は、好きな人の傍に居られる事が幸せかもしれません。
実際、他の既婚者もそうだと思います。
・・・・・・・そうじゃなければ、結婚しようなんて思わないと思いますし・・・・・・。
それに俺も、父様の言ってることが正解に近いとは思いますし・・・・。」
「正解に近い?」
「えぇ。
でもそれが全てだとは思えません。」
「いや・・・・。
間違いも正解も無いと思うんだが・・・・。
というか、そんな風に話をそらしても無駄だぞ。」
「チッ」
ミランは、フランの舌打ちを軽く聞き流し、縁談の日程やいつ仕立屋を呼ぶのかなどの話を勝手に話しだした。
全ての説明が終わり、再び結婚を進めようとしたところで、フランの方を見ると・・・・
分厚い本が飛んで来ていた。
執務室なのだから、本があってもおかしくはないのだが、正に字の通り、本が飛んで来ていた。
ミランめがけて真っ直ぐに・・・・。
それに気づくと、当たるはずだったその本を、ミランは軽々と避けた。
「フラン。
諦めが悪いぞ、いい加減腹を括ったらどうだ?
それに、この程度で・・・むっ!?」
息子を宥め賺そうとしたところで、それが目に入った。
どうやら、さっきの一瞬でこれだけの量を投げたらしい。
そちらを見ると、フランは既に走り出していた。
窓に向かって。
そして、ミランが本を避け終わって、フランがさっきまで居た場所を見ると、息子はもう居なかった。
「はぁ・・・・。
やっぱり逃げたか・・・・。」
そう呟くと、窓が開いてカーテンが靡いている方を見た。
そして、部屋の中をまた見ると、言った。
「本は大切に扱えと、いつも言っているだろうに・・・・。」