アウトオブあーかい部! 〜部室棟 乙女の干物 集まりて 怠惰を極め 綴るは実績 電子の海へ あゝあーかい部〜 90話 姉
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
モーラ、あさぎ(2)
モーラ:あさぎ、起きてる?
あさぎ:パッチリ二重
モーラ:そっち行ってもいいかな?
あさぎ:ごめん帰ってからでも良い?
モーラ:帰るって、今からお出かけ?
あさぎ:4時には帰るから
モーラ:丑の刻参りでもしてんの?
あさぎ:まあそんな感じ
モーラ:夜道には気をつけてね
あさぎ:私呪われる側なの?
日が登るか登らないかという早朝4時頃。
あさぎが家に帰ると、ドアを背にお隣さんが待っていた。
「モーラ姉……!?」
「あ〜!やっと帰ってきたな、この不良娘。」
モーラはあさぎの姿を見つけると、詰め寄ろうとしてすぐに立ち止まった。
「……何してんの?」
「あ、いや何でもないよ?うん。」
近寄ってみると、モーラは背中に、ちょうどポッケには入らないくらいの大きさの何かを隠しているようだった。
「何隠してんの?」
「……見たい?」
「もったいぶるなあ。」
「知りたい?」
「ま〜〜〜た変なお土産でも買ってきたの?」
「変ではある……ッ!」
「そこ否定しないんだ……。」
あさぎがモーラの周りをクルクルと周り隙を伺うが、モーラは頑なに背中を見せない。
「なんだか当ててみ?」
「え〜……。」
あさぎは疲れて立ち止まり思索した。
「……栄養満点のマウス。」
「1番目の回答じゃなくない?」
「じゃあ、毒々しい色のグミ。」
「確かに海外のはデカくて毒々しいけど……それはそれで意外とイケるんだぞぉ!?」
「違うのか……。」
「深夜に呼び出してグミなんて出されたら、あたしならキレるよ。」
「だね。」
「ほらほら、想像力上げてこ?」
「腎臓。」
「かーーっ!いつもながらあさぎの想像力には驚かされっぱなしだね。」
「お陰様で。」
2人がふと外を見ると、ほんの少しだけ空が明るくなっていた。
「朝になっちゃうんだけど。」
「ところがどっこい、もう朝です……ッ!」
「おやすみ。」
あさぎが自室のドアノブに触れようとした手をモーラが掴み止めた。
「……そんなに大事なこと?」
「うん……ッ!めっちゃ大事。」
「……………………、わかった降参。教えて?」
「にへへ♪」
モーラが腑抜けた笑顔を見せると、背中から四角くて、平べったくて細長い板状の物体を出した。
「なぁに、これ?」
あさぎは板状の物体を手に取ると、謎解きホラーゲームのようにクルクル回して観察するがやはりなんなのか分からなかった。
「ヒントは……、」
モーラがあさぎから板状の物体を取り上げると、インターホンのすぐ上のスペースに横長になるように引っ掛けた。
「じゃーん♪」
「え……?」
モーラが引っ掛けたレイアウトに心当たりがあったあさぎは、隣の自室の前に同じように引っ掛けられた[青野]という表札と交互に見比べた。
「まさか、表札……!?」
「ピンポーン!大正解♪」
「……読めなきゃ意味なくない?」
あさぎが指摘した通り、モーラが表札と言い張る板は現代を通り越して何かがあった未来のアートという感じの見た目だった。
「集合住宅なんて、一階のポストしか見ないっしょ。」
「それはそうだけど。」
「だからこれは……あたしのささやかな決意表明ってわけ♪」
「なんの?」
「えっとね……?」
モーラは大袈裟に深呼吸すると、まっすぐあさぎに向き合った。
「瑠璃さんの誕生日祝い……やっぱりうちでやろ?」
「『うちで』って……、雪さんも教頭先生も来るんだよ!?」
「だろうね。」
「……いいの?」
「うん。瑠璃さんにはもう話しちゃったし♪」
モーラはリラックスしきった、腑抜けた笑顔で答えた。
「話したって……え?まさか
「そ。『あたしの本当の名前は白久琥珀で、ゆき姉の娘です』って。」
「ほんとに……?」
「嘘ついたってしょーがないじゃん。……まあ、だからさ?うちに呼んでも呼ばなくても、瑠璃さんが2人に会ったら全部バレちゃうんだよね。」
「確かに、バレちゃうね……。」
「だったらさ!?バレる前にこっちからあの2人にサプライズしてやろうってわけよ!」
「そっか。……それが、モーラ姉の決意表明なの?」
あさぎがモーラを見上げる眼差しはどこか隠しきれない不安を訴えていた。
その目が『またどこかに行ってしまうのではないか』といっていることは、言葉にせずともモーラには伝わっていた。
「うん。」
あさぎの頭に優しく手を置く。
「それで……もう逃げ回る日々も、風来坊もおしまい♪」
「…………そっか♪」
あさぎの安心しきって腑抜けた笑顔が誰かに似ていたような気がしたが、いまいち心当たりがないモーラは敢えて口にしなかった。
「じゃあ飾り付けとかしないとだね。」
「へいへい。」
モーラはあさぎを自室へと招き入れ、あさぎの部屋から避難させていた飾りを引っ張り出すと、あさぎはモーラの腕を引っ張って隣に座らせた。
「準備しないの?」
「……話したいこと、あるんでしょ?」
「それはさっき
「話したけど……、なんだかまだ煮え切らない……。『50点』って感じ?」
「…………はぁ。ほんっっと親子だねえ。」
「何が?」
「ん〜ん、こっちの話。」
「何それ。」
「いーからいーから、残りの50点……今、聞く?」
「うん。」
「え〜……今ぁ?」
「嘘。」
「な、なにおう……!?」
「気づいてないと思うけど……あたふたするとことか、嘘ついたときのお顔とか……雪さんとそっくりだからわかる。」
「そんなにそっくり……?」
「うん。」
「あさぎにとって、よくない話かもよ?」
「だとしても。……モーラ姉、話したいんでしょ?」
「で、でもほんとに
「時間無くなるから手短に。」
「うわぁ辛辣……。」
背中を丸めてガックリと項垂れると、一息ついてモーラは語り出した。
「……あたしがあさぎに近づいた理由。」
「理由なんてあったの?」
「うん。……瑠璃さんに頼まれたからなんだよね。」
「お母さんが……?」
「あさぎが1人で寂しくないように〜ってさ。」
「なんか意外……でもないか。」
「ぜ〜んぶお見通しなら、ね。」
「じゃあ、昆虫ゼリーとか発掘キットも?」
「お察しの通り、あさぎの興味を引こうと、不器用なりに色々貢がせてもらいました……。」
「な〜んだ、そんなこと?」
「『そんなこと』って……怒らないの?」
「なんで?」
「なんでって……、あたしが色々したのはあさぎじゃなくて、瑠璃さんのためだったんだよ?あさぎのこと、世話のかかる子どもAくらいにしか見てなかったんだよ!?」
「あってんじゃん。」
あさぎはピント伸ばした両手の親指と人差し指を胸の前でくっつけて『A』の形を作った。
「ああ、いや確かにあさぎは『A』から始まるけど、」
「なに?それとも……、」
あさぎが急に不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「私がコオロギにビビりながら昆虫ゼリー食べてるとこ見てゲラゲラ笑ってたのも、モーラ姉が半べそ描きながら砂ブロックゴリゴリしてたのも、サブスクでクソ映画見つけたってキャッキャしてたのも全部嘘だったっての……!」
「それは……嘘、じゃ……ないけど。」
「ならよしっ!」
「『よし』で済ませて良いの……?」
「良いじゃん、目的がなんだってモーラ姉が楽しかったのがほんとなら。……嘘でしたとは言わせないよ?」
「……………………、」
モーラはあさぎの言葉を咀嚼する様に、何度も、何度も黙って頷いた。
「そ…………っかあぁ。」
やがて、モーラは空気が抜けてしぼむバルーンの様にソファーの背もたれに倒れ込んだ。
「ま、私の前で嘘がつけると思わないことだね♪」
「はぁ。ほんとに……ほんっっっと〜〜に、親子だねえ。」
モーラはギュッと目頭を抑えてあさぎから顔を背けた。
「ねえさっきからそれ、何?」
あさぎがモーラの顔を覗き込むと、モーラは更に逃げる様に背中を丸めた。
「なんでもない。こっちの、はな……、
あさぎが低くなったモーラの頭を優しくポンポンと叩くと、モーラの背中が小刻みに震えた。
「ああ、もう……、」
またこの、頭に暖かい感触……瑠璃さんよりもちょっぴり小さい、大好きな手だ。
「モーラ姉……?」
「…………ズルいよ。」
モーラの声が潤んでガサガサになっていた。
「なんで、二人とも……あたしが大好きなとこだけ、みごとにおんなじなのかなあ……。」
「……だから親子なんじゃない?」
「なに、それ……、」
タガが外れた様にモーラがボロボロと涙を溢した。
「そこは、『親子だから』じゃないの……?」
「逆だよ、逆。」
「逆……?」
「私ね?『親子だから』とか、『血が繋がってるから』っていうの、あんまり好きじゃないんだよねえ。」
あさぎはうんざり、という様子で浅く短いため息をついた。
「だって、それが正しかったら毒親の子どもは毒親にしかなれない訳じゃん。」
「……。」
モーラには、あさぎの言葉がかつて雪のことを毒親と罵った自分への当てつけに思えて言葉を返せなかった。
「別に血が繋がっていようがいなかろうがさあ?大好きな人の良いところはどんどん似ていけば良いじゃん。……あっ!」
あさぎは突然、忘れていた何かを思い出したかの様にハッとしてモーラの顔を見た。
「『似る』って、使い方これであってたっけ……?///」
モーラはちょっと自信なさげに尋ねるあさぎの腑抜けた笑顔に、また既視感を覚えた。
「国語は向かうところ敵無しじゃなかったの?」
「……それもそっか。」
「おい。」
「おっと、話が脱線した。」
「誰のせいだと。」
「まあいいや。ええっとなんだっけ……そうそう、人は大好きな人に似ていくって話だった。」
あさぎは手のひらに拳をポンと置いて勝手に自己完結すると話を続けた。
「だから、私はお母さんに似てる訳だし……親子とか家族って、そうやって『なる』ものだと思うんだよね♪」
「家族に……『なる』……。」
「だからお母さんは雪さんのこと、ゆき『姉』って呼んでるんじゃない?」
「それも、あさぎが瑠璃さんのことが大好きだからわかるってわけね……。」
「そーゆーことだよ。モーラ『姉』♪」
モーラはあさぎがわざとらしく『姉』を強調した意図を聞き返す様なことはしなかった。
代わりに、袖で涙をゴシゴシと拭って勢いよく立ち上がった。
「……っし!飾りつけしよ!」
「誰かさんのせいでもう時間あんまり無いからねえ……。」
あさぎもつられて気だるげに立ち上がった。
「深夜徘徊してる方が悪いっつの。」
「社会人なら事前にアポ取りなよ。」
「世の社会人は家族相手にもいちいちアポ取んの?」
「それもそっか……♪」
カーテンの隙間から差し込むだんだんと眩しくなる黄金色の朝日をよそ目に、2人は部屋中飾りまみれにした。




