〈八章〉引き金
作戦が中断され、戦火は各々の場所で上がった。
レンが居るのはキッチン。側には負傷した戦闘員が1人。レンは仲間の手当てに当たっていた。
天井が崩れた後、バラバラに分散した後をエネミーが追っていた。
逃げている内に弾は減り、2人はキッチンに逃げ込んでいた。
レン「このくらいなら大丈夫。しばらくしたら動ける様になるよ」
そこに近づく足跡。エネミーが匂いを嗅ぎながらキッチンに入ってきた。戦闘員は手当てをしたとはいえすぐには動けない。レンは近くの包丁を手に取っていた。
戦闘員「やめろレン。無茶だ!」
戦闘員が囁く。レンは制止を無視して体を入り口に向けた。
エネミーがどんどん近づいてくる。
レンはバレない様に後ろに周り、包丁を構えた。
レン(刺し違えても頭を潰す。私なら反撃されても....)
その時、レンの後ろ。手洗い場で水滴が落ちた。
レンが飛び込み包丁をエネミーの体に突き立てるが、エネミー呻き声を上げながらは素早く体を旋回させ振り払う。レンの体は吹き飛ばされ冷蔵庫に叩きつけられた。
レン(くっ...まずい...)
包丁は惜しくもエネミーの肩に刺さっていた。傷つけられたエネミーは激昂し、吠えながらレンに突進した。
その時窓が割れると同時にエネミーが血を噴いて倒れる。
そこにはハルと複数の仲間が銃を構えていた。
ハルは銃を下ろし、エネミーが動かない事を確認した後。仲間に負傷した戦闘員の様子を見に行かせた。その間に吹き飛ばされたレンの元へ向かう。
ハル「...動くな。骨が折れてるかもしれない」
レンは体を起こしながら答えた。
レン「このくらい...大丈夫!...ほら平気だよ」
ハル「“平気”って言葉を、もう使うな」
その目には静かな怒りが滲んでいる
ハル「再生するから突っ込んだ?
それで守ったつもりか?
もし気絶したらどうする?もし再生する前に仲間を殺されたら?
もし...再生しなかったら?」
レンは口を継ぐんだ。その手は震えている。
ハル「お前が仲間を想うように、俺もお前が大切なんだ...頼むから無茶な真似はするな」
その声は安堵と心配が溢れていた。
レンは静かに頷いた。
レン「...ハル...ありがとう」
ハル「おう。怪我人が大勢いる。お前が必要だ」
レンは顔を上げ、前を向いた。
レン「...うん!」
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その頃、広間から抜けた廊下では
アキが苦しんでいた。口からは黒い血を吐き出している。
リュウ「お前...それ..なんで」
カイは止血に使ったガーゼを簡易的なセットで調べる。
カイ「傷口にも黒い血...だけどアキのじゃ無い...」
リュウの脳裏を調査で発見したC団戦闘員の遺体が即座によぎった。
リュウ「あいつら...実験してやがったのか...俺らのエネミー化について...」
周りは状況を飲み込めず、狼狽えていた。そんな中、怒りに震えるリュウの手にアキが銃を握らせた。
アキ「...リュウ...お前っが...やれ!」
そう言うアキの体は震えており、表情は苦痛に歪んでいる。
リュウの呼吸が浅くなる。
誰もが理解していた。今アキを失う訳にはいかない事。そしてその理想はもう叶いようが無い事を。
リュウの脳内でアキや同期との思い出が巡る。共にネバーリサーチに逃げ込んだ日の事。仲間が次々とエネミー化していった日の事。
そしてもう2度と仲間を失わない為に命を賭けて研究を続けた日の事。
手が震える。
リュウの目は泳ぎ、額には汗が滲む
呼吸はさらに浅くなる。
アキはそんなリュウの手をもう一度強く掴み、リュウの目を見た。
それだけで十分だった。
リュウは大きく息を吐き、銃の引き金を引いた。
ーーーパン
乾いた音が皆の心に響いた。
アキの体は倒れ込んだ。
アキの目尻から涙が滴り落ちた。
その涙に後悔や恐怖はなかった。
リュウはアキの持っていた銃を取り、静かに歩き出した。
その目には確かな決意が浮かんでいた。
リュウ「弔ってはやれねぇ。だが安心しろお前の意思は俺らが継ぐ。」




