〈七章〉開戦
ーーーー寒い。
何が起こったのかは分からなかった。この場所にいる理由も全て。
ーー腹が減った。
目の前では何かが動いている。
それは銃を構え、涙を浮かべていた。
ーー食糧だ。
漠然と、そう思った。
周りには四足獣が彷徨っていた。
それを食べる気にはなれなかった。
頭を傾けると、それらは動きに合わせて走った。
使える。
しばらくすると別の食糧が食べカスを連れて逃げていった。
ーー腹が減った。
だが、食糧はまだある。収穫には数が要る。
それからは、食糧の観察と駒の増加で日々が過ぎた。
上手くいった。奴らが行動しない夜に兵を送れば大量の食糧が手に入った。まだ、食糧はある。
ーーー腹が減った。
もう一度、収穫を行う。
夜。静かだった。以前はやかましかったのに、今は違う。だがやることは変わらない。
その時、世界が白く光った。
アキ「総員、攻撃開始!」
ネバーリサーチは、次の襲撃に備えていた。
リュウ「こんな目に何度もあってたまるかよ!」
数日前――
アキとリュウは皆を集めていた。
アキ「知能持ちはまた来る。今度こそ奴を殺す」
言葉に、恨みと決意が沈んでいる。
リュウ「前は夜に来た。今回も夜だろう」
アキは作戦を要点だけに絞って伝えた。
「見つけたら大広間に誘導する。灯りと弾幕で動けなくする。それと――今回は火を使う。やっかいな再生の阻害のためだ。」
その作戦は始まった。エネミーの群は燃え続け再生が鈍くなっている。
銃を構える手が震えている者もいた。
それでも撃て、という合図だけが飛んだ。
エネミーは次々と倒れていく。だが知能持ちは、小さな動きを見逃してはいなかった。
知能持ちが首をかすかに傾けると、群れの一部が一方向へと走り出した。その先には、少し前に加入した年少者たちが並んでいる。
「まずい!逃げろ!」
この作戦は質より量だ。動きを鈍らせるため、銃をうまく扱えない者も前に出ている。
エネミーは子どもたちを踏み抜き、壁を突き破って侵入した。知能持ちが再び頭を揺らすと、大量の個体が参戦し、柱や梁を砕き始めた。天井が軋んで崩れを始める。ネバーリサーチは幾つかに分断された。
その時、悲鳴が床を震わせた。子どもの叫びだ。誰かが顔を伏せる。アキだけがその声に手を伸ばした。
一人の戦闘員が足を潰され、呻いている。だが周囲の個体はその者を襲わない。アキが駆け出す。
リュウ「駄目だ、アキ!罠だ!」
アキが戦闘員の手を取った瞬間、周りの視線が全てアキに集まる。彼は屈み、銃を構えた。
リュウはとっさに電子端末を取り出し、アキの頭上へ投げた。端末大音量で音楽を撒き散らす。エネミーがそちらへ一瞬反応した。二人はその隙に無慈悲に狙撃を続け、目の前の塊を切り崩す。
――だが、その一挙手一投足を、知能持ちは見逃していなかった。
戦闘は各地へ広がり、最も苛烈な戦場は大広間だった。アキとリュウは増幅した威力の銃を振るい、負傷者をかばいながら驚異的な抵抗を続ける。
しかしエネミーについた火はもうすでに消えていた。そんな中、知能持ちは少し距離を取って佇んでいる。
背後で小さな物音。エネミーが塊を作って押し寄せる。
「退け!」とリュウが叫んで駆けた。懐から手榴弾を抜き、高く跳んだ瞬間、塊の中央へ投げ込む。迅速で正確な対応だ。
だが陣形が一瞬乱れた。その隙に、屋根の上から別の個体が負傷者を狙って飛びかかった。
唯一それを察知して庇ったのがアキだった。
腹部に爪が触れる。だが直後、エネミーの頭部が爆ぜ、個体は吹き飛んだ
――カイが狙撃銃で撃ち抜いていた。
「こっちだ、急げ!」
縄梯子が下ろされ、皆は大広間から脱出を始めた。カイは最後尾を確認し、シャッターを閉め、通路を走った。
リュウ「助かったぜ、カイ」
カイ「あぁ。作戦が中断された今、危険なのは大広間だと思って向かって正解だった。」
しかしその瞬間、全員の足が止まった。最後尾で、アキが倒れていた。
リュウ「アキ!あの時の傷か?」
カイ「違う、あれはかすり傷だったはず...」
アキの呼吸は荒く、額に冷たい汗が滲んでいる。顔色が悪い。カイはレンのように検査器具を取り寄せるが、言葉が詰まる。
カイ「熱が……すごい。なんでだ」
その答えを最悪な形で知る事になった。
アキが吐血した時、その血はエネミー特有の黒に染められていた。




