〈四章〉目覚め
そのたびにバンの動きが、どんどん鈍くなっていった。
バンに次々とエネミーが飛び乗ってくる。
戦闘員「やばいぞアキ! このままだと突破できない!」
するとアキは、ベルトを座席に巻き付け、
そのまま体をバンの外へと投げ出した。
戦闘員「アキ!!」
だがアキは、ベルトを巧みに使って体を固定し、
不安定な姿勢のまま、バンに張り付いたエネミーを次々と撃ち落としていく。
さらに、襲いかかってきたエネミーを懐の拳銃で撃ち抜いた。
——バンは、再び動き出した。
戦闘員「ハハハ……バケモンかよ」
バンはA団を目指して進み続ける。
やがて一行は、孤児が捨てられるポイントへと辿り着いた。
そこで、アキたちは言葉を失った。
大量の血。
そして、孤児たちが着ていたであろう服が、無残に散乱している。
——孤児は、確かに来ていた。
だがそこに残されていたのは、到着と同時にエネミーに蹂躙された痕跡だった。
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バンが危険エリアを抜けようとした、その時。
突如、車体が大きく揺れ、停止した。
アキ「何があった!!」
戦闘員「分からない!! タイヤがスリップして——!」
バンは旋回しながら、完全に動きを止める。
次の瞬間、四方八方から大量のエネミーが押し寄せた。
アキたちは、バンを捨てる決断を迫られる。
アキ「一人でもいい! 生きてA団に辿り着け!
状況を伝えて、必ず助けを呼ぶんだ!」
明らかに、エネミーの動きは“作戦”に基づいていた。
その異様さを感じながらも、アキは武器を構え、死闘に身を投じる。
⸻
一方その頃、地下では非戦闘員たちが、
唯一銃を持つサラを先頭に進んでいた。
サラ「この先に緊急用の避難所があるから、
みんなはそこで待っててねぇ」
レン「サラは……?」
サラ「私は他の団の状況を確認してくる。
だから、みんなは待ってて」
その声は、優しくも微かに震えていた。
曲がり角を曲がると、避難所の灯りが見えてくる。
安堵した、その瞬間——サラの脳裏に、ある疑問が浮かんだ。
視力の低いエネミーが、夜に行動するはずがない。
だから、夜や地下は安全だった。
——その“常識”は、すでに壊れていたのだ。
気づいた時には、もう遅かった。
避難所には、B団、D団、E団のメンバー。
そしてその遺体と、それを狂ったように貪る複数のエネミーの姿があった。
サラ「みんな来ちゃダメ!!
ハル!! みんなを連れて逃げて!!
とにかく、遠くに!!」
言い終わるや否や、サラは銃を乱射する。
ハル「全員、ついて来い!!」
ハルは振り返らず、走り続けた。
⸻
しばらく走った後、背後からエネミーの足音が響く。
サラがいた方向からだ。
——ハルたちは、武器を持っていない。
レン「まただ……また、みんなが……」
その時、一人の年少者が、
地下道のぬかるみに足を取られ、転倒した。
ハル「まず——」
その瞬間、レンは迷わず年少者の手を掴み、前へ押し出した。
だがそれは、エネミーに追いつく“隙”を与える行為だった。
レン
(あぁ……これ、ダメかなぁ。
カリア……カリアみたいに、できたかな……)
レンの体が、エネミーの波に飲み込まれていく。
ハル「レェェーーーン!!」
その叫びは、虚しく地下に消えた。
⸻
ハルは、レンを失った悲しみを呑み込み、前へ進んだ。
だが限界は、すぐそこまで迫っていた。
前方は鉄格子。
背後からは、複数のエネミー。
死を確信した、その時——
上のマンホールから、銃声が轟いた。
現れたのは、リュウ、A団戦闘員、
そしてアキと数名のC団戦闘員だった。
アキ「ハル!! 大丈夫か!!」
ハル「はい……でも、サラと……レンが……」
一瞬、アキの表情が後悔と動揺に歪む。
だがすぐに切り替え、ハルの頭に手を置いた。
アキ「……よく、みんなを守ったな」
ハル「……はい」
堪えていた涙が、溢れ落ちた。
⸻
一行は、避難所へと向かう。
リュウ「なぁアキ。おかしくねぇか?
そこのハルくんの話だと、避難所には数体、
地下道にも複数のエネミーがいるはずだろ?
でもさっきから、姿どころか痕跡すらねぇ」
アキ「ああ……。とにかく急ごう。
今できるのは、それだけだ」
避難所に辿り着いた時、
彼らは衝撃的な光景を目にする。
床一面に散乱する、黒いエネミーの血。
中央には、複数のエネミーの死体。
そして、その中で——何かが蠢いていた。
警戒する間もなく、ハルが駆け出す。
現れたのは、血まみれのレンだった。
魂が抜けたように倒れ込むレンを、
ハルは抱きしめ、泣き崩れる。
⸻
事件から数日後。
ネバーリサーチは、
A団とC団を除き、壊滅状態となった。
C団もまた、サラと戦闘員二名を失っている。
レンは、エネミーに捕まった後の記憶を失っており、
何を聞いても「覚えていない」の一点張りだった。
そして——
レンの血液検査結果は、『正常』だった。




