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人類未満  作者: r_kobori
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外伝:悲劇の孤児達の誕生

春の陽気が時間を忘れさせるような季節。

木陰に覆われながら本を読み、腹が減ったら飯を食べ、眠くなったら眠りに落ちる。

なんて幸せな休日なんだろう。

鳥の囀り、葉が擦れる音、壊れかけの掃除機の音。こんな日々が続けば.....ん?

壊れかけの掃除機?

何でここにそんなものが?


あぁそうか、清掃員が出勤したのか。

そろそろ起きて、データ整理の続きをやらないと。


パイプ椅子で作った簡易的なベッドからゆっくりと体を起こす。

全身が痛み、頭はぼんやりとしている。

ねばつく身体をパソコンへ向け、見慣れたファイルを開いた。


「....はぁ。また失敗か....」


その時、一つの足音が近づいてくる。


「トルソー、また徹夜したのか?帰って風呂入ってきたらどうなんだ?」


トルソー「ルーカス先生....ちゃんと4時間は寝てるし、風呂にも入ってますよぉ....2日に1回は」


ここはシェルター第一大学生命研究学部。

シェルター内でもトップクラスの学力を誇り、新時代を創るをスローガンに、莫大な資金と贅沢な設備がある研究室。


ルーカス先生は再生医療のパイオニアで、先生への期待で我が学部はこの6階建のビルを丸ごと研究の為に使用できている。


ルーカス「エネミーの細胞からのアプローチねぇ...まぁ1番量産に向く方法だな」


先生はたまたま開いていたパソコンを一瞥しただけで内容を断定し、そう答えた。


トルソー「でしょ?大量生産が出来れば、適合しなくても色々ためせるじゃないですか!」


俺たちが今進めているのは、人口臓器による移植に関する研究であり、移植者と拒絶反応を起こさない臓器を作る為に研究に励んでいた。


ルーカス「不可能じゃない...が、今までの方法で一回で適合する臓器を作った方が確実だなぁこの成功率だったら。」


トルソー「それはこれから何とかしますよ。」


俺は誤魔化す様に答えた。

実際の所、何とかする術なんて思いついてもいないくせに。


それでも、俺はそこまで焦っていなかった。

費用に余裕があるからか、先生が優しいからか、それとも、この日常が続くと疑っていなかったからか。

それは今も分からない。


一通の電話が鳴り、雑談が中断された。

当たり前のように先生が受話器を受け取り、

俺は作業に戻った。

先生の驚く声にも気付かずに、俺は作業を続けた。


後日、研究員全員が集めらめた。

何だ何だと騒ぎが起こる中、先生が重い口を開く。


ルーカス「先日政府から連絡があった。人口臓器を活かし人間に似た生命体を造り上げろと、その為の費用と時間は惜しまないらしい...」


...は?

何言ってんだこの人は?

人間に似た生命体....?

知能を持つって事か?人と何が違うんだ?

なんで....何でこんな事....こいつ、ほんとにあの先生か?


トルソー「....何言ってんすか?」


気がつけば言葉が口を突いて出ていた。


トルソー「そんな、非人道的な事....何のために?

受け入れられません。当たり前だ。」


ルーカス「.....目的は....知らされていない。極秘で進めろと.....」


トルソー「訳も聞かずにやれ...って事ですか?

そんな事はないでしょ。貴方は何か隠してる。」


先生は何も言わなかった。


トルソー「どうにか言えよ....なぁ!これは人間を作るって事なんだぞ?!何に使われるかも分からない親のいない子供を量産する事になる!

あんたがそんな事、訳も聞かずに受け入れる人じゃない筈だ....俺たちに隠してるんだろ?

そうだよな?言えよ、言ってくれよ!!」


頼む....何か訳をくれ。

納得は出来なくていい。何か、何でもいいから。

俺は貴方に失望したくないんだよ。



....あぁそうかよ。それがあんたの答えかよ。


トルソー「....辞める。こんな事出来ない。」


ルーカス「....っ。.....頼む。待ってくれ。行ったらダメだ。」


トルソー「黙れよ。もうあんたの声は聞きたくない。」


もうあんな所に居られない。それが俺の答えだ。


俺は研究所を飛び出し、何をする訳でもなく歩き出した。

どうすれば....どうすれば研究を止められる?

このまま行けば絶対いい方向には進まない。

進んでいい筈が無い。


..........ザッ......ザッ......ザッ


急がないと。あの設備と人員ならやろうと思えばやれる。止めないと。

生まれた子供がどうなるかも分からない以上、

俺が止めなきゃ悲劇で済まされねぇ何かが起こる。


....ザッ...ザッ..ザッ


とにかく政府に掛け合って、

研究の目的と真相を....何の足音だ?

後ろ、追いかけてき.....


ゴッ....


なっ.....痛っ...誰....だ......


——————————————


...?ここは....どこだ?

何も見えない。微かな揺れと低い音....電車か?

電車...シェルターの中に電車なんてあったか?

...っ!?まさか、ここは外?!


何の為に!?いや、分かりきってる。口封じだ。

それでも受け入れられない。

そこまでするのかよ.....


電車が止まった。

どうにか、脱出して.....っ!


トルソー「おい!誰だ?!....っ!クソが離せ!

随分雑な誘拐じゃねぇかよ。おい!」


痛っ...投げられた?

この音、もしかして....電車が動く!


おいおいおいおい、置いてくつもりかよ!

くっ....よし、足は外れた。

このまま腕も.....っはぁはぁ


なんとか手足の拘束と目を覆う何かを外した俺は目の前の景色に言葉を失った。


草木は枯れ、錆びた線路と不気味な雑木林だけが残される。エネミー蠢く外の世界に俺は置き去りにされた。


線路沿いに歩けばいつかは.....いや、どれだけの時間運ばれたか分からない上にすぐに帰れる距離には捨てないだろうな。


エネミー...は見える範囲には居ない。

数が減ったって噂は本当なのか?

あとは食料と拠点を....ダメだ。全てが足りない。

....あぁ。このまま死んじまおうかな。

なんの希望もなけりゃ、生き残ってもシェルターには多分帰れない。

それなら....いっそ......


...ん?あれは何だ?

黒い体表、肉に埋もれる目を持つ四足獣。

何度も写真でみたエネミー....俺はあんな奴の細胞を一生懸命に調べてたんだな。


今思えば、全てが無駄だった。


あぁ...あぁそうだ。こっちに来い。

俺を殺してくれ....いっその事、楽に。


エネミーが近づいてくる。

目の前で飛び上がり、俺の上にのしかかった。


涎が垂れ、額に降り注ぐ。


.....怖い。死ぬ?死ぬのか?俺は?

駄目だ嫌だ。死にたくない。怖い。殺される。殺される。

どうにか...何か、石?

これで頭を....


俺は偶然掴んだ石をエネミーに打ちつけた。

想像よりも安易にエネミーが怯む。


今がチャンスだ。走れ!逃げろ!動け脚!

どこへ?どこへ逃げる?どこでもいい!

とりあえず...建物。こいつに襲われない場所まで...


————————————


...はぁ...はぁはぁ

どれだけ走った?ここはどこだ?

無我夢中に見えた建物に入ったが、ここにエネミーは居ないのか?


俺はさっきの事を思い出した。

目の前まで、エネミーの目が、牙が、喉が、

身体は自然と震え上がり、無意識に背中を壁に押し付けていた。

あの暗がりにエネミーが居るのかもしれない。

今にも後ろから飛びかかって来るのかもしれない。

怖い。

怖い怖い怖い怖い嫌だ。

死にたくない。殺されたくない。


おれはぐったりとその場に座り込んだ。


————————————


あれから、どれだけ時間が経っただろう。

何年...いや、何十年かもしれない。

俺が偶然逃げ込んだ建物は、人類がまだエネミーに対抗していた時代の軍事基地だった。


非常用の持ちのいい食料が大量に備蓄されており、使う気にはなれないが武器も大量に置かれている。


味のしない硬いパンを食べ、基地を調べ、眠る。外に出る気にはなれなかった。


基地を散歩したり、倉庫の中を走ったり、

会議室で寝てみたり....


自分がおかしくなっている事も自覚する程に、

人と会えない時間は永く、果てしなかった。


それでも、外には出たくない。

未だにまだ、エネミーの幻影を見る。

もう二度とあんな思いはしたくない。

何度も同じ事を考えながら、俺は今日も同じ日々を繰り返した。

...一体、いつまで.....


ガタッ


!?何の音だ?

倉庫の方向...まさか、エネミーが侵入して?

いや、ない。倉庫に入るには重いシャッターをこじ開けるか、横のドアから入るか。

シャッターはこっちの操作でしか開かないし、ドアはエネミーが通るには狭すぎる。

大丈夫....大丈夫だ。エネミーがここに入る訳がない。


俺は念の為壁にかけてあった銃を持ち、慎重に倉庫まで向かった。

前方向に構えながら、一歩ずつ。

徐々に死角を消すように倉庫へ向かう。

鼓動が早まり、呼吸が荒くなる。

大丈夫、大丈夫だ。大丈夫.....


そんな思案を巡らせながら倉庫の奥へと進む。

そんな俺の指が衝撃と共に銃の引き金から剥がされた。


...子供?何でこんなところに.....生き残り?いや、ありえねぇ。時系列が一致しない。

まさか、こいつも追放されたのか?


子供は震えてこちらを見ている。

銃に怖がっているのかとも思ったが、どうやら違うらしい。

見た目は5.6歳と言った所...園児のような服装には泥汚れが目立つ。

その子は泣きそうになりながらも俺の足を掴み、声を無理矢理押し出すように言った。


「たっ...助けて。お願い!

ナツくんがぁ....ナツくんが殺される....」


俺は咄嗟に窓から外を見た。

エネミーを思い出すのが嫌で避けてきた外の世界。あの日、命懸けで逃げた場所を1人の子供が走っている。後ろには一体のエネミーの姿がある。


...エネミーだ。こっちに...こっちに来てる。

銃がある。銃で撃って....いや、外に出たら別の個体が居るかも知れない。大丈夫...大丈夫だ。

ここに入れる筈がない。

動くべきじゃない。リスクが高すぎる。

そうだ。死んだら元も子もない。

せっかく生きられるのに、外に出るメリットなんか....


「お願い!お願いおじさん!ナツくんを助けてぇ!」


子供の叫び声が耳を裂く。

助けて...?いや、助けろったって、見ず知らずのガキだ。命を賭ける価値なんてない。

それに、俺には何も出来ない。

あいつがエネミーに襲われる前にここまで来ればいい話だ。俺がリスクを犯す必要なんてない。


大丈夫だ。きっと間に合うさ。

もしエネミーに喰われたって、俺は何とも....


トルソー「....っクソが!おい、急げ!!」


俺は気がつけば外に出てエネミーに銃を向けていた。

怖い。またエネミーと対峙するなんて、考えたくもなかった。

怖い。また襲われるかも知れない。今度は逃げきれないかもしれない。

それでも、俺は少し安心した。

少なくとも俺は、子供が死ぬのを黙って見れるクソ野郎じゃない。

たった、それだけの事に。


俺は銃で飛び上がったエネミーを打ち抜き、

奴の悲鳴が耳に届く前に子供を連れて基地へ

戻った。

ナツくんと呼ばれる子供と元からシェルターに居た子供が、涙も拭かずにお互いの存在を確かめるように抱き合っている。


しばらく経って、2人は泣き止んだ。


トルソー「...聞きたい事がいくつかあるんだが、いいか?....ナツくんだったか。そっちのお前は?」


マル「....マル。」


トルソー「随分簡単な名前だな。覚えやすくていい...で、何でこんな所に居るんだ?」


ナツ「分からない。先生は遠足だって。

みんなと遊べるんだって言ってたのに、

電車から下ろされて、みんな化け物に食べられて.....」


遠足、電車、化け物、

こいつらも追放されたのか?みんなっつったな。子供が大人数で....そんな事あり得るか?

子供....子供....子供.....まさか?!


トルソー「おい!...っとあぁすまねぇ。怒ってる訳じゃねぇぞ。シェルター第一大学生命研究学部って分かるか?」


マル「第一....孤児院の前の名前?なんでおじさん知ってるの?」


最悪だ....点と点が最悪な形で繋がった。

こいつらが、あの時先生に言われた人間に似た生命体....研究の失敗作だ。

それを電車で捨ててやがる。

...あんたはどこまで堕ちれば気が済むんだよ...ルーカス!


啜り泣く声が聞こえる。

ナツが仲間を思い出したのか、その場で蹲り涙を流している。マルが不安そうな目でナツを慰めている。


そうだ。理解した。

俺がすべき事はエネミーにビビる事でも、

シェルターに怒りをぶつける事でもない。

この子達を....形はどうであれ、人間として生を受けたこの被害者達が安心して過ごせる場所を作るんだ。

研究を止められなかった。

この子らには俺の研究成果も使われてるだろう。

ならこの最悪な状況を出来る限りまだマシな最悪に近づける。

それが俺に出来る、ただ一つの償いだ。


トルソー「....大丈夫だ。俺が生き方を教える。

俺がお前らを意地でも生きようと思える環境を作ってやる。」


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