〈三十一章〉エピローグ:あなたの選択が造った世界で
〈三十一章〉
空は青く、澄んだ空気が流れている。
地面は背の低い草で覆われ、時折小さな虫が飛び回っている。
太陽の光が照らす先には、脱線した電車があった。
ツタが張り巡らされており、人の気配はない。
周囲にはフェンスが張り巡らされており、
電車の中には、誰かが住んでいたような後がある。
天井に吊るされた電球。
椅子を二つ合わせただけの、簡易的なベッド。
自然に還ろうとする思い出に、誰かの足音が近づく。
背の高い人影が電車に近づく。
白い翼を持つ鳥が、空へと飛び立った。
電車の天井には鳥の巣が出来ており、雛鳥の鳴き声が聞こえてくる。
男はどこか懐かしいような、それでいて寂しいような顔を浮かべた。
足が止まる。
男の前には墓石のようなものが置いてあった。
近くの地面が盛り上がっており、最近掘られた後があった。
男は墓石の前で座り込み、ココアとコーン缶を取り出した。
ココアの蓋を開き、墓石の前に置く。
風が吹き、草の騒めきと共に男の前髪が浮き上がった。
その下から懐かしい顔が覗く。
ハル「ただいま、レン。」
1人の少女の選択から、はや数年が経っていた。
ハル「...何から話そうか。あれから、色んな事があったんだ。」
その声は少し低くなっていた。
口元には髭を剃った跡が残っている。
それでも、あの頃と同じように話し始めた。
ハル「レンが死んだ後、ルーカスの予想通り、みんなの筋肉量が減った。肉を摂取した時期にもよるが、まともに動けなくなった奴もいた。
ルーカスが皆んなのサポートにあたってくれてな。今でもリハビリの指導を続けてる。」
花の匂いが通り過ぎる。
エネミーが蔓延っていたこの場所にも、命溢れる春がやってきたようだ。
ハル「みんなより早く動けるようになったカイは、あれから各シェルターに取り合って、俺たちをシェルターで暮らせるよう手配してくれた。俺はその場には居なかったけど結構苦労したみたいだぜ。」
ハルはコーン缶を一口飲んだ。
ハルの少し後ろにはバイクが見える。
予備のガソリンや、タイヤ等が積まれている。
ハル「俺はあれから、電波が届かなかった可能性の高い地域を巡ってエネミーの生き残りを探してる。ついさっき確認が終わった。大丈夫だ、あの日からエネミーは見てない。...お前のお陰だな。」
遠くからハルを呼ぶ声が聞こえる。
ハルは振り返り、先に行くように促した。
視線をレンに戻す。
ハル「他のシェルターに居た奴らだよ。
俺達の話を聞いて、着いてきた連中だ。
まだ計画段階だが、外の安全性が確立されたら、シェルターなんて無くなってそこら中に人が暮らし始める。
色んな所を旅行したり、
色んな人と出会ったり...」
ハルは大きく息を吸って、もう一度前を向いた。
ハル「レン...俺は今、最高に幸せに暮らしてる。
他の皆んなも、それは変わらない。
もう暫く待っててくれ。いっぱい、土産話を持っていくよ。」
ハルは静かに笑い、その場を離れた。
雛鳥の声が聞こえる。虫の鳴き声が聞こえる。
私たちは生きている。あなたの選択が造った世界で。




