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人類未満  作者: r_kobori
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〈三十章〉大好き

私は、ベランダで夜の空気を浴びていた。

少し冷たくて、それが心地いいような時間。


何かを考えたい時は、いつもこうしてる。

あの日の事を思い出せるから。


何も分からないままシェルターの外に放り出されて、昨日まで仲良く笑っていた仲間が大勢居なくなって、私を助ける為にカリアまで...

それからアキさんに色々教えられて、

何も分からずに気持ちが沈んでいた私を、

ハルが支えてくれた。


私が自分を分からなくなっていた時も、

私が無理をして怪我をした時も、

私がエネミーに襲われそうになった時も、

私が逃げてる途中に倒れた時も、

私が自分の身を顧みず夜中までずっと作業をしていた時も、


あなたはいつでも、私を支えてくれた。


風が吹き抜ける。

手に持ったココアを一口飲む。

その暖かさが、体の奥からすぅっと広がっていくのを感じる。


あぁ...みんなといたいなぁ。


でも――


ココアを飲み干す。

最後の一滴まで、味わうように。


明日、私は死ぬ。


それが、私の選択だから。


私は部屋に戻って、ベッドに入った。


目が覚めると、とっくに夜が明けていた。


いつもの服に着替えて、

いつも通り支度をして、

いつもは行かない部屋に行く。


一歩ずつ、今までの思い出を拾い上げるように、一歩ずつ。


扉を開けると、皆んなが待っていた。


部屋の真ん中にはパソコンが置かれている。


これを操作すれば、電波が広がって

エネミーは根絶できる。みんなも生きられる。


私は、大きく息を吸って振り返った。


レン「カイ!今まで私のわがままを聞いてくれてありがとう。この先も、みんなの為に誰かのわがままを聞いてあげて。」


カイ「お前程の奴はそうそういねぇよ。」


カイはそう言って笑った。

今まで色んな事を教えてくれた先生でもあるし、皆んなの頼れるリーダーでもある。

アキが、リュウが居なくなった時、誰よりも悲しかったのに、それを皆んなに見せないようにしてくれた。


私は、ルーカスを見た。


ルーカス「すまない...レン。私のせいで、こんな...」


レン「そんなに気にしないで。お陰で私は楽しかったよ。私を産んでくれて、ありがとう。ルーカス!」


最初はルーカスの事、ちょっと許せなかった。

それでもルーカスは、罪を認めて私達の為に

色んな事をしてくれた。

私が同じ立場なら...なんて考えることもできないくらい、ルーカスは罪と向き合い続けていた。


私は部屋にいる他のメンバーを見渡した。


一緒に訓練した仲間。

一緒に逃げた仲間。

一緒に笑った仲間。


レン「みんな...ありがとう」

一緒にいてくれて、

一緒に戦ってくれて、

一緒に笑ってくれて、

本当に、ありがとう。」


誰かが、声を上げて泣いた。


そして、私は今度はハルを見た。


レン「ハル!...」


...あぁそんな顔、しないでよ。

身体が震える。

だめだなぁ。泣くつもりなんてなかったのに。


熱い涙が、頬を伝う。


誰がの鼻を啜る音が聞こえる。


しっかり考えて決めたのに...

生きたいって、みんなといたいって思ってしまう。


言葉が上手く出てこない。


ハルが、私を強く抱きしめた。

震える手で、抱きしめ返す。


ハル「レン...今まで、ありがとう。

レンが居てくれたお陰で、どんなに辛い訓練も乗り越えた...死にたくなった時も、立ち止まれた。」


ハルの涙が、肩に落ちる。

そんなのずるいよ...

視界が歪む。大粒の涙がこぼれ落ちていく。


ハル「...俺は生きてやる。お前が...お前が向こうで、羨ましいって思えるぐらい最っ高の人生を送ってやる!だから、安心して向こうでみんなと見ててくれ。」


ハルが震える声で言う。

ダメだ、涙が止まらないや。

でも、でも最後にこれだけは言わないと、


私はハルを一層強く抱きしめた。

耳元に口を持っていく。


レン「ハル...大好き。」


私は数歩下がった。

そして、涙を拭って皆んなの顔を目に焼き付けた。


レン「皆んな...今までありがとう!みんなとの日々が、すっごくすっごく楽しかったよ!」


皆んな、笑ってる。

涙でぐしゃぐしゃになった顔でも、皆んな笑顔を向けている。


最後に見る景色が、これでよかったな。


私はパソコンを操作した。


機械の起動音が聞こえる。


――ピ、ピ、ピ...


規則的な音。


電波が世界中に送られていく。


やがて、手の先の感覚が徐々に消えていく。


レン(...始まった)


冷たさも、温かさも感じない。

ただ、何も感じなくなっていく。


足元から、力が抜けていく。


レン(...あ)


体が、傾く。


でも、倒れなかった。


ハルが、私を支えてくれた。


どんどん周りの音が、小さくなっていく。


視界が、狭まる。


でも、ハルの顔だけは、はっきり見えた。


ハルが、何か言っている。


音は聞こえない。


でも、ハルの声だけはしっかりと届いた。


ハル「レン...俺も、大好きだ」


レン「...うん!」


私は笑った。めいいっぱいの笑顔で。


ハルが、泣いていた。

でも、笑っていた。


レン(...ありがとう)


視界が、白く染まっていく。


もう、何も見えない。


でも、温かい。


ハルの腕の中が、温かい。


レン(...幸せ者だなぁ)


最後に浮かんだのは、みんなの笑顔。


カリア。

サラ。

アキ。

ナギ。

リュウ。


そして――


ハル。


レン(...行くね)


私の手が、ハルの手から滑り落ちた。



――――


ハルは、レンを抱きしめたまま動かなかった。


レンの体から、温かさが失われていく。


でも、その顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。


まるで、幸せな夢を見ているような。


カイが、そっと近づいた。


カイ「...ハル」


ハルは何も言わなかった。


ただ、レンを抱きしめ続けた。


涙が、レンの髪に落ちる。

誰も、声を出せなかった。


ただ、静かに泣いていた。


部屋の外では、電波が世界中に広がっていた。


エネミーが次々と倒れていく。


世界が変わり始めていた。


でも、この部屋では、時間が止まったように静かだった。


レンの笑顔だけが、そこにあった。

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