〈二十七章〉期待
一行はヴィクターの遺体を置いて、施設の先へ進んだ。
重く、冷たい。
他の存在を拒絶するような扉の先には、実験室のようなものがあった。
壁一面に並べられたファイル。
机の上に散らばった実験器具。
割れたまま片付けられていない試験管。
カイ「...すごい量だ。」
ルーカス「全部エネミーに関する研究か...?」
カイは手当たり次第にファイルを開いていく。
カイ「...これは」
その手が震えている。
カイ「エネミーの細胞構造...行動原理...
そして、電波による制御方法...それが詳しく書かれてる。...すごいな。今までの資料と比べものにならないぞ」
ルーカスが静かに呟いた。
ルーカス「おそらく、シェルターに入った後も
研究を続けていたんだろうな。今までは古い情報しか手に入らなかったが...」
レンがホワイトボードに目を向けた。
そこには孤児の細胞構造。そして、エネミーの細胞との比較が事細かに書かれている。
皆がその情報量を整理している時に、何かが
落ちる音がした。
ハル「レン?大丈夫か?」
レンが落ちたファイルを拾い上げる。
レン「...ごめん。ちょっと、疲れてるみたい」
レンは引きつった笑顔を向けた。
ハル「レン...」
ハルは何かを言おうとしたが、止めた。
ファイルを拾うのを手伝いながら、
そっとレンの体に手を置いた。
それから数時間。
カイの指示で、メンバーたちは研究資料を車に積んでいった。
ファイル、実験器具、パソコンのハードディスク。
持ち運べるものは全て回収する。
レンも手伝おうとしたが、カイが止めた。
カイ「お前は休んでろ。疲れてるんだろ?」
レン「でも...」
カイ「いいから」
カイの声は優しかったが、有無を言わせない強さがあった。
レンは頷き、壁に寄りかかった。
そんな中、ルーカスが足を止めた。
ルーカス「...少し、ここに残ろうと思っている」
皆の視線がルーカスに向けられる。
ルーカス「ここには、今までにない最新の設備が残ってる。もしかしたら、エネミーの正体も分かるかもしれない。」
ルーカスが続けた。
ルーカス「だから、君達だけで基地に戻ってくれ。食料や水も確認できたし、あの電波を使えばエネミーも寄ってこない。私が残るのが最善だ。」
沈黙が落ちる。
ハル「...一人で大丈夫なのか?」
ルーカス「大丈夫だ。むしろ、一人の方が集中できる」
レン「でも、何かあったら...」
ルーカス「定期的に連絡する。心配しないでくれ。」
ルーカスは微笑んだ。
疲れているが、その目には光があった。
カイは少し迷った。
でも、ルーカスの決意は固い。
カイ「...分かった。無理するなよ」
ルーカス「ありがとう」
カイは続けた。
カイ「...死ぬなよ」
言葉は短かった。
それでも、そこには深い信頼が溢れていた。
車が出発する直前、レンは窓からルーカスを見た。
レン「...期待してる!」
ルーカス「...あぁ!」
車はそのまま夜の闇に溶けていった。




