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人類未満  作者: r_kobori
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〈二十六章〉人間

身体が動かない。

ナギの命を奪い、リュウの身体を弄んだヴィクターが許せない。


レンの左腕には弓が握られていた。


レン(何故か左腕だけ動く...けど片手じゃあ弦を引けない...!)


ヴィクターの声が聞こえる。

仲間たちの怒りも。


でも、誰も動けない。


レン(神経...? いや、筋肉?)


床を触れている感覚はある。

でも、力が入らない。


レン(これ、もしかして...)


視界の端に、何かが光った。

割れた窓ガラス。


レンは左手でそれを掴んだ。

手から鋭い痛みを感じる。

心臓が激しく動き出す。


レン(怖い、怖い、嫌だ、でも....)


レンが歯を食いしばった。


レン(もう誰も、失いたくない!)


直後、嫌な音が聞こえる。

激痛に顔を歪ませる。

心臓の音がうるさい。

傷口が熱い。


でも次の瞬間、傷口が再生していく。

骨が伸び、それに寄り添うように神経や筋肉が伸びていく。


レンは立ち上がった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ヴィクターの顔が怒りに満ちる。

膨れ上がったその腕には、鉄球がめり込んでいる。


ヴィクター「化け物が...」


その時、腕の肉の隙間から電子端末が落ちる。

レンは直感で動き出していた。


端末を掴み、力任せに床に叩きつける。

装置が砕け散ると同時に、電波の受信が止まった。


その時、鉄球の着弾地点の皮膚が波打つように蠢いた。

ヴィクターはそれに苦しむように身を屈ませる。


ヴィクター「そんなっ...調和が...くっ...新たな媒介を...」


呟く声が聞こえる。その黒い肉の塊から刺すような視線を感じた。

レンが身構える間も無く、ヴィクターの腕がその場を薙ぎ払った。


レンは思わず目を閉じた。


次に目に映ったのは、瓦礫の山の上に立つヴィクターの姿であった。

エネミーへの変容が進んでおり、顔の殆どは赤黒く膨らんでいる。


レンの体は瓦礫に挟まっている。ヴィクターの攻撃で、壁が崩れたらしい。


聞き慣れた射撃音が聞こえる。ハルが天井の上から銃を構えていた。

続けて仲間達が次々に射撃を始める。


ヴィクターはそれでも止まらなかった。

無我夢中に近くの仲間に襲いかかるが、他方向からの射撃がそれを妨害する。


レン(銃が効いてない...?!いや、違う。エネミーに変容しかけてる今なら狙うのは...)


レンが瓦礫から這い出す。身体中が痛い。それでもレンは弓を握った。


ヴィクターが苦しみの声を上げる。

かつての面影も感じられない程に、変容は進んでいる。

喉を震わすその声は、聞き取るのもやっとな程に変わり果てている。


ヴィクター「何故お前らは私に逆らう!?人間以下の化け物が...何故私に逆らうのだ!!」


傷口から黒い血が吹き出す。


ヴィクター(そんな...私が、神となった私がこんな事...!)


その時、レンが飛び出した。

レンの脳内を過去の記憶が駆け巡った。

皆で過ごした温かい日常。アキに与えられた安心。

仲間を助ける為に勉強を続けた日々。


どれだけ世界に否定されたとしても、その記憶だけはーーー


弓の弦を弾く音が聞こえる。


レン「化け物なんかじゃない...私もあなたも、ただの人間だ!」


その幸せな日々の記憶だけは、確かに人間として生きた証であった。


鉄球がヴィクターの頭を貫く。


ヴィクターは倒れ込み、変容した体が崩れ始める。

黒い血が床に広がっていく。


ヴィクター「...何故だ...私は...」


その声は、体はもう人間のものではない。

でも、言葉だけは人間だった。


ヴィクター「アンナ...」


レンは、街で見た日記を思い出した。


ヴィクター「すまなかった...お前を...救えなかった...」


それでも、最期の言葉だけは...


ヴィクター「娘を...守れなかった...」


そこで、声が途切れた。


体が動かなくなる。


レンは、その場に膝をついた。


レン「......」


何も言えなかった。


ハルが近づき、レンの肩に手を置く。


ハル「...行こう」


レン「...うん」


レンは立ち上がり、ヴィクターから目を逸らした。


床には、懐から落ちた写真が転がっている。

血に染まり、もう誰の顔か分からない。


レンはそれを拾い上げた。


レン「...さよなら」


小さく呟いて、写真をポケットにしまった。

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