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人類未満  作者: r_kobori
24/31

〈二十四章〉祈り

レンは静かに日記を閉じた。

息が、上手く吸えない。


ハル「...レン?」


レン「......」


言葉が出なかった。

何を言えばいいのか、分からなかった。


エネミーの侵攻が進む世界で生まれた狂気は、

心の拠り所として正当化されていたのだ。


カイ「...行こう」


ハルが、そっと檻に手を合わせた。

他の者も、それに倣う。


短い沈黙の後、一同は階段を上った。


地下室を後にした一行は、街の中央へ向かった。

教会の扉を開ける。


祭壇には、エネミーの像が飾られている。

その周りに、花が供えられていた。


壁には、文字が刻まれていた。


「変容は昇華なり」

「自尊を捨て、永遠を得よ」


レンは、その文字を見つめた。


レン「...狂ってる」


誰も、反論しなかった。


教会の外でルーカスは電波塔について調べていた。


カイ「...どうだ?」


ルーカス「...わからない。規則的だけど、何かを伝える為の信号とはまた少し違う。とりあえず

周波数のデータは取れたからもう大丈夫。」


カイ「じゃあここを出よう。もうここには用はない」


一行は街を出ようと歩き出した。


レン「...この街、何があったんだろう」


カイ「宗教に囚われた街。それが真実だろう」


ハル「もう戻らないほうがいい」


レンは一度だけ振り返り、それから前を向いた。

車は静かに次の目的地へ向かう


ーーーーーーーーーーーー


誰もいなくなった街。

地下室に、白衣の男が立っていた。


その男は檻の前で立ち尽くしている

手には一部が黒く塗りつぶされた絵を握りしめていた。


彼は、血に染まったワンピースを拾い上げた。


「...愛していたよ」


短く、そう呟く。


それから、日記を開いた。


――夫に相談すれば良かった。


その一文を見て、男は静かに笑った。


「相談されても、私には何もできなかっただろうな...」


日記を閉じ、名残惜しそうに檻を見つめた。


扉が、風に揺れている。

冷たい風が、地下室に吹き込んだ。


風に揺られた白衣の中から黒く膨れ上がった皮膚が顔を覗かせた。


男は自身の首に掛かっていたIDカードを握りつぶし、地下室を後にした。


街には再び、静寂が戻った。


地下室に取り残されたカードには

[特別研究員 ヴィクター・ノア・ハイン]と書かれていた。


数日後、あれからいくつかの施設を回ったが、収穫は少ない。

資料室でレンは、すでに分かりきっている情報が書かれているファイルに、

何度も目を通していた。


そこにハルが入ってくる。その手には2人分の昼ご飯がある


ハル「レン...ご飯持って来たぞ。」


レン「...うん。そこ置いといて欲しい」


レンはファイルから目を逸らさず答えた。

その目には隈が浮かんでいる。


ハルは何も言わずにレンの隣に座った。

レンの前に昼ご飯を置く。


レン「...ごめんハル。資料をまとめないと...」


ハル「食べろ。」


ハルがご飯を食べ始める。

レンはハルを見ながらも、ファイルから手が離せなかった。


レン「...ごめん。これ終わったら食べるよ。」


ハル「いいから、今、食べろ。」


レンはファイルに栞を挟み、静かに閉じた。


食器の擦れる音だけが聞こえるような静寂。

レンの手が少しずつ遅くなる。目には涙が滲んでいた。


仲間と共にご飯を食べる様な幸せな時間。その終わりがすぐそばまで来ているかもしれない。

明日には、誰かが居なくなるかもしれない。

レンの食事は、いつからか減っていた。

眠れていないことも、ハルには分かっていた。


ハル「...ったく、頑張りすぎなんだよ。」


ハルはレンの背中にゆっくりと手を置いた。


ハル「...きっと大丈夫だ。」


レンの目から涙が零れ落ちる。レンはこの瞬間が永遠に続く様に祈った。

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