〈二十一章〉ただいま
リュウと合流し、脱出用の車との合流地点に向かう。
リュウ「大体の状況は聞いた。急ぐぞ!」
銃を持っていないレンを中心とし、3人は走り出した。
リュウが警備員を次々と撃ち抜く。
その弾丸は防弾服を貫通し、確実なダメージを与える。
人を殺す事に抵抗が無いわけではない。それでも親友を殺した事と比べれば、
仲間を守る為の引き金は軽く感じた。
合流地点に到着した時にはもう既に全員揃っており、車は3人を乗せて走り出した。
その姿をヴィクターは焦るわけでもなくただただ見送った。
それが「失敗」にならない事を分かっているかのように...
車は何事もなくシェルターの中心部を抜け、門へ向かう。
ハル(順調....いや、順調過ぎる。何故追ってこない?)
門が開くまで残り5分。想定より少し遅れているが、ほぼ確実に間に合う。
そんな中リュウは自身の手を見ていた。
少し震えているが、問題なく動く。息を整え銃を握り直した。
車は少し加速し、予定通りの時間に門の前へ到着した。
だが、車が減速したまま止まった。
カイ「……開かない?」
正面の巨大なゲートは沈黙したまま、警告灯だけが赤く点滅している。
静かなゲートとは対照的に気づけば周囲には多くの車が取り囲む様に列を成している。
皆はここで初めて、最初から逃げ道を失っていた事に気づかされた。
全ては、誰かの想定の範囲内だったのだと。
絶望する暇もなく銃を持った警備員が次々と車から降りる。
ハル「応戦するぞ!車に近づけるな!」
ハルがそう叫ぶと同時に銃声が響き出す。
それでも完全には止められない。警備員の波がジリジリと近づいてくる。
レンは球を込め、弓を構えた。
弦に指を掛けた瞬間、
ナギの顔が脳裏に浮かぶ。
――まだ、温もりの残っていた胸。
――動かなくなった瞳。
指が、動かなかった。
その一瞬の躊躇で、1人の警備員が距離を詰めた。
跳弾が車体を叩き、ガラスに亀裂が走る。
リュウは一瞬だけレンを見た。
問い詰める事も、叱る事もしない。
リュウ「……俺が行く。」
そう言って、銃を構え直した。
しかし、その手は振るえている。
その違和感をカイは見逃さなかった。
カイ「リュウ待て!お前....」
その声を遮るようにリュウは自身の研究室にあった書類をカイに押し付けた。
リュウ「無事にシェルターを出たらこれを見ろ。それと....みんなを頼む。」
カイはその決意に口を挟めなかった。ただ受け継がれた責任の重さを
確かめるように書類を強く握り、走り出したリュウの背中から目を離さなかった。
リュウは目を細め、揺れる視界を無理やり一点に絞った。
呼吸が浅く、肺がうまく膨らまない。視界の端が歪み、床が波打つ。
それでも引き金を引く感触だけは、はっきりと分かった。
先頭の警備員を撃ち抜き、
その体を盾にするように抱え上げて、包囲網へ踏み込む。
息が荒くなる。地面を踏む感覚が脳に伝わらない。
後ろから追う警備員の弾丸が肩を貫いた。
衝撃よりも先に、腕の感覚が抜け落ちる。
自分の体が、自分のものじゃなくなるような感覚。
それでも足だけは止めなかった。
止まった瞬間、全てが終わると分かっていたからだ。
リュウは操作室までたどり着いた。
背中には多くの銃弾が食い込んでおり、赤く染まっている。
朧げな手付きでドアを開き、残された力を振り絞るように門の操作レバーを倒した。
轟音と共に門が開き、ネバーリサーチを乗せた車はシェルターからの脱出を果たした。
エネミーが蠢き、多くの仲間を殺した地獄に戻って行く。
リュウはモニター越しにその姿を見ていた。
シェルターの外、そこにはかつての仲間の幻影が揺らいでいる。
銃声も悲鳴も届かない、奇妙な静寂。
遠ざかっていくエンジン音だけが、まだ世界と繋がっていた。
リュウ「……ハハッ……随分遅くなっちまったな。」
リュウは微笑み、アキの銃に目を落とす。
強く銃を握っていた手をそのままゆっくりと解した。
そして、静かに目を閉じた。




