〈十七章〉戻れない道
埃被った車庫で、ハルとナギは
戦闘を繰り広げていた。
ナギの手にはスタンガンが握られている。
ハル(見た事のない武器だけど...乱用しないって事は近距離系なはず。)
ハルは工具箱からいくつかの工具を
掴み、投げつけた。
ナギは身を屈め、その隙にハルが飛び掛かる。
しかしナギは投げられた工具を
拾い上げ、ハルの頭を強く打った。
頭から血を流すハルにナギが近づく。ナギがスタンガンのスイッチに
指を掛けた時、鉄球がナギの肩に命中した。
視線の先ではレンが弓を構えていた。その体は柱に寄り掛かっており、かろうじてバランスを保っていた。
ナギ「...はぁ。大人しく着いて来て欲しいんやけどなぁ。」
ハル「誰が行くかよ...」
ナギは少し目を伏せながら続ける。
ナギ「ここでレンは連れてきたかったんやけど...しゃあないか。」
次の瞬間、ナギが床に何かを投げつけた。
乾いた破裂音と共に白い煙が一気に広がる。
ハル「煙幕?!この程度なら...!」
すると天井から警告音が鳴り響き、
大量の泡のような物が降り注いだ。
床は一瞬で白く覆われ、足元の感覚が奪われる。
ハル(くっそ...狙いは火災報知器か...!)
ナギは地面に置いてあった鞄を持ち、走り出した。
カイが調査書を入れていた鞄である。
ナギ「ごめんな...悪いけど、これが僕にとっての最善や」
ナギはそう呟きながら出口に向かう。すると泡の奥で弦の音がなった。次の瞬間、風を切り裂く音が
聞こえた。
レンの撃った弾は外れ、ナギの姿は
大通りに消えていった。
翌日、ネバーリサーチは倉庫に集まっていた。そこにナギの姿はない。
皆がナギの裏切りを受け入れきれずにいた。
ルーカス「地下室を確認して来たけど、名簿にナギって名前はなかった...完全に外部の人間だよ。」
カイが頭を抱える。
カイ「すまない...俺がもっとちゃんとしてれば調査書までは盗られなかったはずだったのに...」
ハル「常に持っとくわけにも行かないし、こればっかりはどうしようもなかったないだろ...」
脱出用の車は無事動く事も確認できた。門も開けられる。だが、作戦を知ったナギが裏切り者だと分かった以上、この作戦を実行するのに明らかなリスクが生まれた。
レンが重い口を開いた。
レン「ナギは...本当に私達の敵なのかな...」
ハルが驚いたようにレンを見る。
ハル「お前本気で言ってんのか?
殺されたかも知れないんだぞ!?」
ハルの頭には包帯が巻かれていた。
レン「だって今までいっぱい助けてくれた。もし裏切り者なら幾らでも見捨てられるはず...」
ハルが荒い口調で言葉を被せた。
ハル「事実今、俺らは調査書を失って、逃げるのも難しくなってんだろうが!いい加減現実を見ろよ!」
レンは俯いて口を継ぐんだ。重い空気が流れる。そんな時、ルーカスが
パソコンを見ながら呟いた。
ルーカス「いや...レンの言う通りかも知れない...」
一方その頃、政府直属の研究所の一つにナギの姿はあった。
ナギが調査書を取り出し、ヴィクターに手渡す。
ヴィクター「ほう...これが例の調査書か...素晴らしいね。それより何故今動いた?何か直接伝えねばならないほど重要な事でもあったか?」
ナギは椅子に腰掛け、足を組んだ。
ヴィクターとは目を合わそうとしない。
ナギ「別に、バレそうになったんで
行動が制限される前に逃げただけっすよ。ネバーリサーチは変わらず脱出方法を探ってます。」
ヴィクター「...そうか。まぁ門が開かない限りは時間の問題。使える建物も限られているしな。」
ヴィクターはそう言いながら調査書を開き、内容を確認していた。
ナギは毅然とした態度でヴィクターに告げる。
ナギ「それあるだけでも勘弁して下さいよ。それより、契約内容は守ってくださいね。」
ヴィクター「あぁ勿論だ。君が使える限りは、他の孤児を傷つける様な真似は避ける事を約束しよう。」
ナギは胸の奥が軋むのを感じながら、それでも視線を逸らさなかった。
もうネバーリサーチには戻れない。
それでもーー皆が傷つかず、平和に生きられるなら、この選択を背負うと決めていた。




