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人類未満  作者: r_kobori
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〈十五章〉選択

地下室にはまだ冷たい空気が残っていた。

誰も動かない。

あの部屋で見た光景が視界から離れなかった。


ルーカスが重い口を開いた。


ルーカス「...ここでは元々、再生医療に関する研究が行われていた。

人工臓器の研究の為元々はビルが建っていたんだ。私はそこの研究員であり、責任者でもあった。」


誰も顔を上げない。そのままルーカスは続けた。


ルーカス「けれどある日、研究内容の大幅な変更が告げられた。

政府から労働力となる人間を作ることを命じられた。勿論反抗しようとしたが、

行動した者はシェルターから追い出された.........すまない。言い訳するつもりはない。

君達を造り出し、地獄に送り込んだのは私だ。」


ハルは息を整え、朧げな足運びでルーカスに近すぎ、胸ぐらを掴んでそのまま押し倒した。椅子が倒れる音が静かな地下に響いた。

ハルは言葉を見つけられなかった。けれどもその目には確かな怒りが滲み出ていた。


ルーカス「....すまなかった。」


ルーカスはその目をまっすぐ見てただ同じ言葉を繰り返した。


誰もすぐには動かなかった

しばらくの静寂の後、ハルが口を開いた。


ハル「......俺らは普通の人間と何が違う?」


ハルが手を離し、ルーカスはゆっくりと起き上がる。

隣の棚からファイルを取り出した。

孤児の事が書いているファイルとは別の物のようであった。

ルーカスは顔を伏せながら説明した。


ルーカス「君は殆ど変わらないよ。強いて言えばエネミー肉への抵抗がある事かな。」


本来、エネミー肉を少しでも摂取した生物は即座にエネミーに変容する。

エネミー肉とは全ての生物にとってのウイルスの様な物であった。


ルーカス「だからこそ政府はあの子や君達を研究したがっている。」


ハルは一瞬、言葉を失った。

その違和感が、胸の奥で遅れて形を持ち始める。


ハル「......“君は”?」


ハルは振り向き、レンを見た

レンがゆっくりと顔を上げる


レン「...私は一体何者なんですか?」


ルーカス「……君は、自分の体のことを、どこまで知っている?」


レンは今までの異常を一つ一つ説明した。

肉体強化が出来なかった事、その代わり体が再生する事、再生時は記憶を失う事がある事...


ルーカスは手に持っていたファイルを開き、レンに手渡した。

そこには大きな文字で「労働力の完成系について」と書かれていた。


ーーーーーーーー

〈肉体の疲労や老化を防ぐためのプロセス〉

・老化した細胞や疲労した筋肉を意図的に破壊

・より若い状態で再度構築

上記二つの工程をバランスよく繰り返す事で永久に使用可能な労働力を目指す

ーーーーーーーー


そして次のページにはレンの顔写真が貼られていた。


ーーーーーーーー

〈被験体No.000267〉

・肉体の形成に成功

・破壊プロセスの喪失を確認

・再生プロセスを発見

→ ・再生に類似した反応を確認

→ ・条件不明、再現不可

〈備考〉

孤児として育成し、10歳までに発動が見られなければ他の孤児と同様に処理する事

ーーーーーーーー


レンは衝撃を受けると同時にどこか納得した様にそのファイルを見ていた


ルーカス「これは私の推測でしかないが、恐らくエネミー肉を取り込んだ事で今まで発動しなかった再生能力が覚醒したんだと思う。記憶がなくなる理由は...まだわからない」


ルーカスはファイルを閉じ、しばらく黙っていた。


ルーカス「...意識を持ってしまった労働力は、“失敗作”として扱われた。だが、すぐに処理はされなかった」


ハル「……どういう意味だ」


ルーカス「成果が後天的に発現するケースも少なくなかったからね。この上で孤児として育てられた。感情と社会性が完全に定着する前、肉体の成長が止まる可能性が高い……大体十歳前後まで」


そこで、レンは理解した。


ルーカス「そして10歳になり、それまでに何か特別な反応が起きなければエネミーの餌として電車でシェルターから離れた場所へ運ばれる事になる...」


レンは、喉の奥がひりつくような感覚を覚えた。

あの日、死んでいった子供たちの顔が、次々と浮かぶ。


ルーカス「その電車は今は止まっている。

私が研究を辞めて、孤児は生まれなくなったからね」


ハル「……じゃあ、もう関係ない話だろ」


ルーカス「いや」


ルーカスは首を横に振った。


ルーカス「まだ私が責任者だった時の権限が一部残ってる。それを使えば電車を動かす事が出来るんだ。」


一瞬、空気が変わる。


ルーカス「使えば君たちの基地まで安定して移動できる。外を歩くより遥かに安全だし、政府から捨てられた設備だから、ろくな警備もされてない」


だが、続く言葉は重かった。


ルーカス「……その代わり出口を壊さないといけなくなる。シェルターに穴を開ける事になる...」


沈黙が落ちた。


逃げられる。

全員、生きて帰れる。

それでも――。


レン「……それは、出来ません」


誰かが息を呑んだ。


レン「シェルターを守りたいわけじゃない。

でも、あそこには――普通に生きてる人がいる」


レンの脳裏に、シェルターでの生活で見た景色が蘇る


人が行き交う街。

どこからともなく流れてくる生活の音。


夕飯の話をする声。

テストの出来を気にする会話。

ゴミの日を確認する、どうでもいいやり取り。


何も知らず、

それでも明日が来ると信じて生きている人たち


そして、生きたくても生きられなかった仲間達。


レン「私達が生きるために、誰かが苦しむのは嫌だ」


レンはルーカスを見た。


ルーカス「……そうか」


ルーカスは一度、視線を落とした。

それは否定でも、肯定でもなかった。


ルーカス「……私には選べなかった道だ」


その声は、震えていた。


ルーカス「君たちの選択を、私は尊重する」

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