〈一三章〉侵入
多くの人が行き交う街。ここはシェルターの中心から少し離れた都市部
そこら中から様々な生活が流れ込んでくる。
そこではいつも通りの平穏な日常が流れていた。
「今日の夜ご飯何ー?」「明日のテスト勉強した?」「今日って燃えるゴミだっけ?」
そんな雑踏の中にフードを深々と被った人影が2つあった。
2人は都市部から離れていき、シェルターの壁付近の閑散部。そこにある廃倉庫に入って行った。
倉庫の中には10代後半ほどに見える青年達が複数人。それぞれが各々の作業に勤しんでいる。
2人はフードを外し、奥に立っている最年長と思われる人物に報告を始めた。
レン「聞いて、カイ!リュウの居場所が分かったよ!」
ネバーリサーチがシェルターに入り既に数年が経過していた。
病院から逃げ出した後、ネバーリサーチはシェルター全体で指名手配されており、行動は制限されている。
レン達は倉庫に潜伏しながら時折外に出て資金や食料の調達、そしてリュウの居場所の情報収集に日々を費やしていた。
カイは机から身を乗り出した。その机にはメモが書かれた地図が複数並べられていた。
カイ「本当か!?」
ハル「あぁ。警備員が話しているのを聞いた。一昨日の朝に中央の研究施設に運ばれたらしい」
ハルはそう言いながら地図のある点を指差した。
シェルターは中心に政府関連施設が連なっており、その周りに都市部が
置かれている。中心から離れる程人通りは少なくなっている。
ハルが指し示したのは中心部の
一角にある建物であった。
その場にいた全員が口を閉ざす。
危険な賭けだ。指名手配されてからの行動範囲から大きく離れており、
捕まるリスクも逃げ切れる可能性も少ない。
カイは目を伏せながら口を開く
カイ「やっと見つけた手がかりだ。
これを逃す訳には...」
ハル「俺たちで行ってくる。」
ハルがカイの言葉を遮った。
カイが驚いたように顔を上げる。
ハル「ここ数年で1番外に出てるのは俺らだ。それに、こいつと2人が
1番連携を組みやすい。」
カイ「でも2人だけで行くなんて危険すぎる...もし見つかったらどうするつもりだ?」
するとハルが手元から弓を取り出した。あれから改良が加えられ、さらに小型化し、センサーも取り付けられていた。
レン「大丈夫!もし警備員がいてもこれで気絶させられるし、ナギから施設内の地図も貰った!慎重にやれば問題ないよ!」
倉庫の奥から疲弊した様子のナギが頭を覗かせた。
ナギ「建設の際の見取り図を手に入れるのに苦労しましたよ...」
カイは少し考えた後にレンとハルの目を見て決心した。
カイ「...分かった。俺たちは近くで待機しておく、決して無理はするなよ」
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数日後。
施設にトラックが入っていく。
中には複数の研究用品に紛れたハルとレンの2人が潜伏していた。
トラックが止まった後に手早く
降りて手筈通り、天井のダクトに入って行った。この施設には清潔を保つ為の空調設備が充実しており、そのほとんど全てがダクトで繋がっている
地図を確認しながら2人はどんどん進んでいく。
やがてリュウが居るはずの
棟に到着した。
2人はダクトから降り、すぐそばのトイレに入った。
しばらくして1人の研究員が
トイレに入ってくる。
用を済まし、手を洗う研究員の後ろにある掃除用品が入っているロッカー扉が不自然に開いた。
そこからレンは正確に後頭部に弾を命中させ、研究員はその場に倒れ込んだ。
個室に潜伏していたハルが出てきて
脈を確認した後に着ていた服と首にかかったカードを剥ぎ取り、レンは掃除中と書かれた看板をトイレの前に置いた。
レン「ハルサイズ大丈夫?」
ハル「あぁ。多分違和感ないはず...」
レン「じゃあここで待ってるから、
リュウの居る部屋を見つけたら連絡する手筈で!気をつけてね。」
ハル「おう。行ってくる」
ハルは気絶した研究員を拘束し、
外に出て部屋を一つ一つ調べて行った。
そして一階の1番奥の部屋の前で立ち止まる。そこには特別研究室2と
書かれており、ぼかし窓の隙間から
部屋の中に複数の研究員の影を確認したハルがレンに合図を送った。
レンはダクトを進み、研究室の
天井にたどり着く。
ベッドに乗せられたリュウの体には複数の管が繋がっており、研究員達はリュウの血液や皮膚を調べている様だ。
だが、その器具は医療用とは言い難く、針の太さも、管の数も、人間一人に使うには明らかに過剰だった。
モニターに映る数値が一斉に更新される。
「……やはり基準値を大きく超えているな。
記録を取ったら、刺激試験に移ろう」
研究員の一人が、淡々とそう呟く。
その声に驚きも戸惑いもなく、他の研究員達は当然の様に次の工程へと進んでいた。
レンは自身の知識を巡らし、生命反応に関係する機器を突き止め、リュウは生きている事を把握した。
レンはほっと胸を撫で下ろし、リュウを連れ帰る為の隙を探し始めた。
そんな時、一つの足音が研究室に近づいてくる。白衣を身に纏った男。
長身で痩せており、色白。髪は長く
刺す様な目付きでハルに近付いて行った。ハルは動揺を隠しながら
軽く会釈をして研究室の前から離れる。だが、男がハルを呼び止めた。
男「貴方...見ない顔ですね。どこの部署所属なんですか?」
ハル「先週からお邪魔させてもらってる近くの大学の研修生です。ちょっと道に迷ってしまったみたいで...」
ハルは事前の準備で大学生が数名
施設に研修生として入っているのを
調べ上げていた。
男は微笑みながら返す。
男「そうでしたか。どうですか?うちの研究は」
ハル「いやぁどの研究も素晴らしく、シェルターの最前線に自分が居るって感じます」
男「それはよかった!もし良ければ
元の場所まで送りましょうか?」
ハル「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です。来た道は覚えているので一度戻ってみます」
男「そうですか...ではお気をつけて」
ハルは緊張を隠しながら、棟の出口まで戻って行く。すると目の前から
警備員が飛び出してきた。
ハルは咄嗟に白衣を投げて警備員の視線を奪い、その隙に警備員を殴り飛ばした。
男が不気味笑いながら近付いてくる。
男「そうか...やはり君が外から来たあの孤児の仲間か...1人で来たのかい?」
ハル「いつから分かっていた?!」
男「いやぁ素晴らしい演技だったが、調査が少し足りなかったみたいだね。研修に来ている大学生は皆、
別の場所で講習を受けているよ。」
ハル「くっ...」
ハルは男に見えない様にレンに合図を送り、身を構えた。
ハル「あんたらは何で俺らを狙ってるんだ?」
ハル(今動いてもどこから敵が来るか分からない。その状況でレンと離れるのはまずいな...とにかく少しでも情報を聞き出して離脱する!)
ハルの手に汗が滲んだ。
男「これは未来の為の研究らしい。
まぁ私は未来なんぞに興味はないがね。」
ハル「じゃあ何であんたはこの研究に参加してんだよ」
男「ふふ。じゃあここまで来た君に敬意を込めて教えよう。
私が興味を持っているのは君たちのその肉体に関してだよ」
ハル(肉体...エネミー肉での強化の話か?)
男「今はここまでだ。あとはまた後で教えてあげよう。」
男が言い終わると同時に警備員が複数現れた。
ハル(限界か...)
ハル「レン!逃げるぞ!」
ハルの声と同時にレンが弓を撃ちながらダクトから降りてくる。
2人は階段を駆け上り、別れ際に男がハルに告げた。
ヴィクター「私の名はヴィクター・ノア・ハイン。今度は診察台の上で会おう。」




