〈十章〉静かな兆し
ネバーリサーチは
旧軍事基地の修復に勤しんでいた。
皆の顔にはもう前までの恐怖や焦燥はなく、
笑顔が溢れている。
それをアキの墓が眺めている。
不定形な形の石で作られた墓の前には複数の花が供えられている。
知能持ちエネミーは近くのエネミーの殆どを戦力として扱っており
知能持ちエネミーを討伐した今、
群から逸れた数体のエネミーを稀に見る程度になっていた。
ハルは倉庫で銃の点検と残りの弾数を確認していた。
倉庫ににレンが小走りで入ってきた
レン「ハール!これ見てみて!」
その手には過去、軍事基地として利用されていた頃の荷物の運送記録と複数の滑車がついた弓が握られている。
ハル「...レン?それどうしたんだ?」
レン「資料室に医療本を探しに行った時にこれ見つけてさ、試作段階の武器が色々書いてたんだけど...このページ!」
レンが指差したページにはレンが持つ弓の写真とその説明が載せられていた。
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【コンパウントボウ】
滑車とケーブル、てこの原理、複合材料など力学と機械的な要素で組み上げられた近代的な弓である
通常の弓より引く力が強いが、滑車と連動することによって効率良く引くことが可能となっている。反動も少なく、ブレも大きく減少している。結果安定し、初速の向上と相まって高い命中精度を期待できる。
このモデルでは弓の代用として小型鉄球が使用されている。
発射時の発砲音がしない為、対エネミーに高い効果を期待できる。
〈保管場所〉 第3倉庫
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レン「さっき試してみたんだけど、私でも撃てたし、ちゃんと的に当たったよ!」
ハル「それは良かったけど...急にどうしたんだ?」
レンは一瞬黙り、
少し目を伏せながら言葉を続けた。
レン「...前モニター室でエネミーを見つけた時、初めてエネミーを怖いと思った...」
ハルは作業の手を止め、レンに向き合った
レン「ハルに調理室で叱られて、私が無理する事で誰かが危険になる可能性を考えた。」
レンはカリアを思い出していた。
レン「...だから私も戦える力が欲しい。誰かを確実に助けられるような力が。」
しばらく、ハルは何も言わなかった。
倉庫に、金属が軋む音だけが響く。
ハルは一度、深く息を吐いた。
ハル「……正直に言うぞ」
レンは顔を上げる。
ハル「俺は、お前が前に出るのが怖い」
レンの肩が、わずかに揺れた。
ハル「再生するから大丈夫とか、そういう問題じゃない。
お前がいなくなる可能性を、俺はもう考えたくない。
それに誰かを助ける為に自分の身を気にせずに何度も死にかけてる。」
それでもハルは、レンの手にある弓から目を逸らさなかった。
ハル「でも……」
言葉を選ぶように、間が空く。
ハル「お前の言う事も一理ある。
前みたいに戦力を持たないからこそ危険になる場面も多い。」
ハルは一歩近づき、弓を軽く指で弾いた。
ハル「...必ず生きて帰ってこいよ」
ハルはそう言って笑いかけた。
レンは大きく頷き、ハルに笑い返した。
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モニター室にリュウの姿があった。
その前には銃や食料の備蓄がメモされた書類が積み重なっている。
手元には次の補給のタイミングと
そのメンバーのメモが添えられている。
目線は時折モニターに向けられ、
外に逸れたエネミーが来ないかを見張っていた。
リュウ「...ん?あいつら何やってんだ?」
その視線の先にあるモニターには
基地の外に出るレンとハルの姿があった。ハルの手元には銃と幾つかの小さい廃材。レンは弓の形状の武器を持っていた。
近くにはエネミーどころか野生動物もいない。周には紅葉が目立つ木がそびえ立っている。
ハルが廃材を前方に投げ、素早く銃を構えて撃ち抜いた。
レンは驚きながらも同じ手順を繰り返した。
廃材を投げ、弓を構え、撃つ。
形状は弓だが発射されたのは矢ではなく鉄球であった。
鉄球は廃材の少し上を通り過ぎ、
廃材はそのまま地面に落ちる。
その手順を何度か繰り返し、時折ハルが姿勢を矯正する。
そしてついに弾は廃材を掠め、廃材は回転しながら地面に落ちた。
レンは飛び上がって喜び、ハルとハイタッチを交わした。
その平和を眺めるリュウの顔が少し綻んだ。
だが次の瞬間世界が少し歪んだ。
リュウが眉をひそめる。
リュウ「疲れが出ただけか...」
そう言ってリュウは視線を手元に戻した。
次の日、カイはリュウの姿を探していた。次の補給についての話をする予定だったが、リュウが一向に会議室に現れなかったからだ。
カイ「...珍しいな。リュウが予定をすっぽかすなんて」
カイがモニター室前の廊下を曲がる。そこには複数の書類を下敷きに倒れるリュウの姿があった
カイ「...っ、リュウ!」
カイは急いでリュウを医務室に運んだ。
リュウは医務室のベットに横たわっており、傍の医療機器にはリュウの心拍数や血圧が事細かに書かれている。そこにはカイのサポートでレンも同伴していた。
カイはリュウの血液を検査しているが、異変はない。
カイ「...駄目だ。ここの設備では
リュウの倒れた原因を判明しきれない....もっと高性能な設備が必要だ」
レンが目を見開いた。
レン「それってつまり...」
カイ「あぁ...シェルターにリュウを連れていく。」




